人間万事塞翁がポニーガール
【ポニーガールタクシー】
翌日、幌つきのトラックに馬車をのせ、私も荷台に乗せられた。
安全のためか轡はされていないが、それ以外はフル装備だ。
「毛布でも敷きますか? 藁でいいのですかモトコ。いや、愚問でしたね。藁がいいのですねモトコ」
「はふっ、はふっ」
未だにしっぽのアナルプラグには慣れなくて、今にもうんちもれそうな焦燥が続く。
子宮口ローターは動いてはいないけれど、そんな大切なところに異物が刺さっているのを体の奥に感じてしまう。
とろとろののうみそのまま、ぞんざいに敷かれた藁の上にどうっと横になり、胴のハーネスを2箇所ほど荷台に固定してもらった。
山道のトラックの振動はすさまじい。
乗用車のシートがいかにちゃんと人の乗る場所であるかがわかる。
固定してもらわなかったら荷台中転がっていたところだ。
お尻を下にするとしっぽが押されてアナルから火を噴きそうなので横向きに丸まって振動に耐える。
そのうち高速に乗り、だんだん空気が悪くなって来た。
雑多なノイズ、常に響く車の音、ああ、今までこんなところで暮らしていたんだ。
景色は見えないけれど、確実に都内で高速を下りたとわかる。
小刻みに発進停止を繰り返し、細かく曲がる。
大きくカーブした時に、後ろの幌が捲くれ、ビルの谷間のV字の青い空の中央に634mの塔が輝いて見えた。
急に自分の今のポニーの姿の非現実さが認識され、夢から醒めた気分になった。
そんな中でのアナルの拡張感が、調教の結果の仕方ないという状態から、今すぐ外してほしいというような気分へ変わった。
車はどこかのガレージへと入り、シャッターが閉まって静かになった。
アシスタントの男たちの手によって荷台から下ろされ、馬車も下ろされると再びシャッターが開き、トラックが出て行った。
しばらくシャッターは開いたままで、道往く人達が中を怪訝そうに覗いては足早に通り過ぎてゆく。
「き、きゃ(あああああああ)」
悲鳴を辛うじて飲み込んだ。
トラックのエンジンのオイル臭い排気が消えたころ、サラがシャッターを閉めた。
サラに促され、ガレージの奥の階段から2階へ上がる。
2階は古びた不動産屋の事務所のようなところで、書類も何も無い棚と、古い応接セットとソファー、事務机が2つ、奥に真新しい簡易ベッド、その脇の床にマットが置いてあった。
男たちはいつのまにか居なくなり、サラと私は二人きり、ソファーに座っていた。
「ここは廃業した靴問屋のビルです。この辺はおもちゃ屋靴屋花火屋が多いですね。これから期間限定でポニーガールタクシーを始めます。営業許可は取りましたし、電動機付きの軽車両は売るわけではないので期間限定で実験車として許可を取りました。早速明日から仕事始めます」
「あの、本当にこの格好で町に出るんですか」
「もちろんです。でないとこの計画の意味がありません。モトコはポニーとしてあなたのおうちの人もテレビで見かける存在にならなければいけないのです」
「私、夢から醒めたみたいで怖いのです」
「それは私もいっしょです。私は顔出しですよ。本国でもネットでも話題になってしまいますよ。でも覚悟のうえです」
「ごめんなさい、サラもたいへんなんでしたね。でも本当に怖い。友達が乗ったりしませんか」
「するでしょうね」
「嫌あ」
「さあ、ここではあの厩のように100%ポニーとして扱うことができませんけど、くつろいでください。モトコはそのマットで、私はそのベッドで寝ます。今日はあと身支度をして夕方日が暮れるまえに試運転に行きましょう。チラシも配らなければ」
「はい」
うなぎのねどこのような細長く狭いビルを2階から3階に上がると住居仕様になっていた。
キッチンがあり、古いベッドや食卓もある。
「モトコの移動が大変なので、ここはお風呂を使う時しか上がりません。2階で寝泊りと事務をし、1階から出発です。さあ、久しぶりにモトコから御竦基子に戻る時ですよ」
戸惑っている間にアームザックを緩められ、コルセットも革パンツも首輪も外された。
貞操帯は水を全て抜いてから、しっぽのアナルプラグごといっぺんに外された。
「んああ!」
覚悟していても声は出てしまう。
髪も解かれて、ついにピアスだけの裸になった
サラも裸になった。
初めて見るサラの裸は白く輝いているように見えた。
古くて狭いユニットバスにお湯を張って、交代で湯船に浸かった。
「ピアスの洗い方わかりますか? 最初に周囲を良く洗ってから、リングを回して洗ってください。もう回しても平気だとおもいます」
おそるおそる肉の中をリングを送って回すと、他のどの皮膚とも違うつーんとする不思議な感触があるが、すぐ慣れた。
「プレートが邪魔ですね」
「オウ、邪魔と言ってはいけません」
「そうでした」
鼻輪も回して洗ったが、こっちはまだ少ししみて痛かった。
クリトリスのピアスは初めてまじまじと見た。
クリトリスの根元の前後に金色の球がついているだけで、自分自身の感覚がなければ貫かれているとは思えない。
こっちは洗うだけでへんな気分になってしまう。
風呂から出たらサラに髪の毛を乾かして解かしてもらい、一度ポニーテールに留めてから革リボンで飾り、さらに革紐を絡めて辮髪のように一本にまとめてもらった。
さっき外したばかりの馬具を全てを元に戻される。
さっぱりした体で、これからテスト走行だ。
ついにこの姿を街中に露出させてしまうのだ。
1階へ下り、まずは安全な走行に大切なハーネスの取り付けと確認をして、それから装飾だ。
まずプルームと革でできた馬の耳のついた革帽子のようなものを被ってから髪の毛を後ろに垂らし、さらにアイマスクを嵌めらて、その上から装飾と遮眼帯のついた轡ハーネスを締める。
まだ革が新しく、ギシギシと鳴る。
アイマスクには数個の穴が明いていて、ぼんやりとだが景色は見える。
乳首を隠す胸カバーを付けられ、ピアスごと格納された。
露出の緊張もあるが、相変わらず鼻輪の惨めさと子宮の圧迫とアナルの排泄焦燥がすごくて、自分が馬として命令通りに動くことしか考えられない。
逆に、それだけ考えていればいいという安心もある。
あとはサラの仕事だ。
馬車に接続されたあとは余計なことを考えず、ただ出発の手綱の合図を待つ。
シャッターが開き、平日の午後のせわしない車の流れに、このまま出たら渋滞の原因になりそうとだけ思ったが、ピシリと合図をもらって、何もかも考えるのをやめて脚に力を入れた。
道路の左脇をパッカパッカシャンシャンと走る。
駐車車両に気遣って勝手に速度を落としたらピシリとお尻を鞭で叩かれた。
そうだ、速度を落とす合図はない。
軽く手綱を右へ引かれて迂回する。
しばらく走っていたら、サラはちゃんと車の往来を見て進んでいるらしく、不思議なくらいクラクションを鳴らされなかった。
左の歩道から、ヘエとかキャーとか声が聞こえるが、遮眼帯のおかげで気にならない。
ビザールな出し物という目で見たとしても、鼻輪はインパクトあるだろう。
時々止まっては、サラが乗り降りする振動が伝わる。
「よろしくおねがいしまーす」
ビラを配っているようだった。
前方に人力車営業中の人が……
平日でも外国人観光客などは普通に利用するのだろう。
車の音で良く聞こえないが、サラが挨拶している。
パシッと加速合図なので、失礼して追い抜く。
あちらは全部人力なので、私は電動でズルしているといううしろめたさが消えない。
橋を何本か渡ったあたりで、広い公園についた。
そこにはテレビ局のワゴン車がいて、取材を受けた。
ひーーっ!!
メディアへの露出はさすがに心臓を抉られるような恐怖と羞恥がある。
テレビカメラの前で、アナルぱんぱんに拡張されてうんちもれそうな気分になっているのが死にそうに恥ずかしい。
膣に異物刺さっているなんて、まさかサラ公言しないわよね。
「今日はよろしくおねがいしまーす」
レポーターの取材に、あらかじめ原稿でも準備していたかのように流暢に答えるサラ。
レポーターが私のまわりをじろじろ見ながら回る。
「まあ、しっぽまでついているんですねー! あっ」
レポーターの人、絶対構造に気付いたよ!
「お馬の人にインタビューできませんか」
「それはむりです」
「えー? 少しだけ!」
「ちゃんと営業上の契約でそうなっているのです。それにあなたはマスクヒーローの取材のとき、少しだけでも顔出せと言いますか?」
「すみません、わたしも昔コスプレをやっていたのでわかります。失礼しました」
レポーターが引きさがって私はほっとした。
しかし公園や路上ではどんどん携帯で撮られてるから、もうネットには拡がっているだろう。
曇って来た上に陽も暮れてきたので営業所へ戻った。
馬車から外され、装飾と轡ハーネスは1階に置いて、ポニー姿のまま2階へ上がった。
「どうでした?」
「疲れました。気疲れです」
「そうですね、私もこれで顔が知られてしまいました」
「おじいさんのためとはいえ、大変ですね」
「ぷっ、モトコがそれを言いますか」
「えー?すみません。おかしいですか」
「あなたの方が犠牲者ですよ?」
「そうでした。むーっ!?」
サラにマットへ押し倒されてキスされた。
おなか減ってるのに先にご褒美になってしまった。
革パンツと貞操帯の前蓋を外され、きょうは指でいじられた。
クリトリスにピアスされてから、初めてのクリトリス直接攻撃。
「あーーっ! あーーーっ!!」
おちんちんのようにしごかれると、一瞬で失神しそうな快感だ。
つままれると、野獣のような声が出ちゃう。
最後は潰されたのか弾かれたのか、すごい一撃をもらって気を失った。
休日にいきなりだとパニックになるので、平日から営業開始だ。
人力車各社さまが客待ちするのと同じ場所で客待ち。
風情がこわれるとか、客をとられるとかクレームが入るかと思ったが、サラが根回ししているのか、それとも期間限定だからか、好意的にかつ好奇的に接してもらっている。
「おもしろそう! いくらですか?」
「30分5000円です」
「お願いしまーす」
「どちらまで行きますか」
「ぐるっとまわって、最後は船にのるんですけど」
「わかりました」
ピシリと手綱の合図でスタート。
道しらないけど、私は動力だから。
ずっと走って、サラがおじいさんを迎えると言っていた船着き場で終点だ。
空車になったら船着き場からすぐ客が付いた。
「せんそうじまで」
「直行ですか遊覧ですか」
「直行でいくら?」
「直行なら1000円です」
「おねがい」
「どうぞー」
こんな感じで平日だというのにひっきりなしに客がつく。
午前の最後にあさくさばしまで乗せ、観光客が途切れたのをチャンスに昼食となった。
サラが回送の札を下げ、私は栄養ゼリーのようなものと水を口の端から流し込んでもらい、サラはどこだかで買ったサンドイッチを食べていた。
馬車との接続は外されないが、馬車が3輪なおかげでただ立っているだけでも充分休憩になる。
今気が付いたが、この馬車ちゃんとウインカーやミラーまで付いていて、今はハザード出している状態だ。
仕事でせわしない車も、こうして日常見慣れた合図があれば、馬車と意識せずに駐車車両として避けて行く。
そして抜きざまに馬車だと気付いてギョッと見るのが面白い。
私がボーッと突っ立って、サラが御者席で飲み物のパックをチューッと啜っていると、写真を撮らせてくれとせがまれた。
サラは慌てて飲み物を席に置き、私をカメラに向かせてパチリと撮ってもらった。
そして今度はカメラを受け取り、その人を私の方に押し付けてパチリ、客席に乗せてパチリ、最後にパンフレットとステッカーを渡していた。
ゆっくり休む暇もなく営業再開。
空車のまま営業所目指して戻る。
途中、軽車両が苦手な変則交差点が沢山あり、動力に徹するといっても気を遣う。
やっと営業所前まで戻ってきた。
息つく暇もなくまた実車。
チャラいカップルだ。
「ヤッベ、スッゲ、なにこれ」
携帯のシャッター音がいっぱいする。
「昨日テレビでやってたー。人力馬車ー。けっこう揺れなくてイイー。風きもちー! って、ちょおお、何撮ってんのよ!」
「ケツ」
ひいいい!! なんですって!?
「やめなよぉ!」
「ヤッベ、超美ケツ! ……ポニーガールタクシーなう。と」
やああ、ツイートしないで!
お尻の画像うpしないでえ!
しっぽは気にしていたけど、お尻の形までは意識してなかったのにい。
しかもその奥ではアナルに限界サイズの異物を咥えさせられた上にうんちもれそうな気がするほどパンパンに膨らまされてるのにい。
恥ずかしくて消えてしまいそう。
意識したらぷりぷり揺れてる自分のお尻が気になって仕方ないいい〜!
でも止まるわけにいかないい。
今じっと観察する人がいたら、露出している私の頬や耳が真っ赤になっているのがわかるだろう。
ああんもう体の細部を細かく観察されると超恥ずかしい。
そんなこと振り切るように一心不乱に走るしかない私。
その夜。
サラは事務所のPCでネットの様子を見ていた。
「結構話題になってますね、いい感じです」
「良くないですよお、お尻の写真うpされたあ」
「私は毎日モトコのお尻みていますけど、締まっていていいお尻です」
「嫌あ」
「ここの掲示板などは美ケツ一色ですね。こういう匿名掲示板の意見はかなり素直に受け取って良いとおもいますよ。あまり続くと
ジサクジエンとか本人乙になりますが」
恥ずかしかったが、すこしだけ嬉しかった。
ポニーガールタクシーの毎日が続く。
テレビの影響や、期間限定ということもあって、平日でも空車はほとんどなくなった。
サラはグッズも作って配り始めた。
髪の毛がヘッドギアに絡まって痛くなったので一旦停止。
轡を外して調整してもらう。
「なにこれ私のフィギュアですか?」
「有名な原型師さんに頼みました携帯ストラップです」
「うー恥ずかしいし奇妙な感じです」
「このサイズだと顔かんけいないです。もう自分とは別なキャラとおもうしかありませんね」
「はあ」
轡を締め直したところでお客さんだ。
「あ、いらっしゃいませ。どちらまで?」
「はなやしき。ガイドはあり?」
「専門ではないので、簡単でよければ。お急ぎでなければ遠回りで行きましょう、直行だとすぐ着いてしまいますから」
「おねがいします」
ピシリと合図をもらい、いったん川べりへ出てすかいつりーを眺め、引き返してろっくすの通りへ出た。
日常の中ではこうしてお客さんとの会話を聞くのが好き。
車がそばを通ると欠き消されてしまうけれど。
鼻輪の惨めさ、うんちもれそうな焦燥感、子宮の突き上げは相変わらず慣れないけれど、この仕事がだんだん楽しくなってきた。
日没後、営業所に戻ってまた取材。
私もすこし取材にも慣れてきた。
しかしこの取材は私のおじいちゃん、私の家族を苦しめるための罠そのものなのだ。
慣れたり浮かれたりすること自体、私は憂うべきことなのに。
サラと楽しくやっているように見えるけれど、単に事象の進行に逆らっていないだけで、私には自由なんて微塵もないのだった。
本当に奴隷ポニーなんだ。
私の体が自由なら、サラにはかなわないまでも、スタッフの男どもくらいみんな倒して暴れることができるのに。
そして家に帰るか警察に駆け込んで、サラのおじいさんの計画を潰すことくらいできるのに。
毎日楽しさと罪悪感の板ばさみで生きている。
しかしそれもまもなく終わる。
雨の日は幌を立て、サラはレインコート、私もポンチョのような雨がっぱを着せてもらって営業だ。
休日はお客さんをさばくのがたいへんだったけれど、道路はすいていて走りやすかった。
ネット予約で満員の上に急なコース変更もあってさすがのサラも目がつり上がっていた。
忙しい、忙しい。
楽しい、楽しい。
みじめ、みじめ。
嫌悪、嫌悪。
ああ、楽しい。
あたまへんななる。
もう早いところ決着つけてー!
