人間万事塞翁がポニーガール
【窒息調教】
鎖を引かれていつもの廊下から脇へ入り、突き当りの何も無い部屋に入ると、金属製のスーツケースが一つ置いてあった。
「股を開いて下さい」
一応素直に開く。
沙羅は貫頭衣を捲ると細いチューブの入ったパックの封を切り、それを私のおしっこの穴に差した。
「うっ!」
そのまま差し込まれると、先からおしっこが漏れた。
そこでチューブの脇の穴に注射器で水を入れると、チューブが抜けなくなった。
チューブの端を尿を溜めるバッグに繋ぐ。
「持ってください」
尿バッグを持たされた。
次にドロリとした缶ジュースのようなものを2本飲まされた。
「まずーい」
「その手の栄養食品でおいしいのは無いですね」
「どうするんですか?」
「目の前にスーツケースがありますよね、それに入ってもらいます」
「そんな……!」
「まずこのボールギャクを口に嵌めてください」
私は口に穴の明いたプラスチックのボールを嵌められてうなじで留められた。
沙羅がスーツケースを開いたのでその中に立った。
まず膝をつき、背を丸め、ドサリと横倒しにその枠に体を合わせ、頭が膝に着くほどに足を引き込む。
ほぼぴったりのサイズだった。
沙羅が私の捲れた貫頭衣をまとめて押し込み、尿バッグを潰れなさそうな空間にいれた。
「解放する時間は全く決めていません。ただ言えることは、『時間』ではなく『日』だということです。納得無く従う絶望と服従の快感が全身に染みたころに開けてあげます」
ギョっと目を剥く私の反論を封じるようにトランクが閉じられ、バチンバチンと施錠の音が暗闇に響いた。
ガチャンと大きな音がしたのは沙羅が部屋を出ていった音だろう。
トランクはジュラルミン製だがちゃんと内張りがあり、裸に近い姿でも密閉された空間で寒くはない。
完全に窒息することはないと思うが急に暴れたりすれば酸欠になるだろう。
閉じられない口からダラダラと涎が漏れる。
後ろ手のまま胎児のような気分で丸まっていると、やはり手足がきつくなってきた。
この状態で日単位の拘束なんて信じられないが、栄養剤や尿バッグなどからすると本気なのだろう。
……
疲れが出たのかしばらく眠っていた。
ハッと気付くと究極に狭い暗闇。
一瞬パニックになって、無駄とわかっているのに後ろ手のまま手足を突っ張ってしまった。
「ウウーーーッ!!」
呼吸の乱れも気にせず、猛然と押す。
ゴトゴトやっていたら、急に酸欠が来た。
「ハヒッ! フヒッ!」
頭がクラクラして気を失った。
次に目覚めたときにはもう時間感覚を喪失していた。
手足の存在感が希薄になっていて、自分は昔からこの形の肉の塊だと思えて来た。
酸素が足りなくて幼稚なことしか考えられない。
ふと、沙羅にたっぷり愛撫されたことを思い出した。
ああ、私、途中のままだった。
…………
いつ眠ったのかわからなかった。
目覚めると右を下にして寝ていたはずなのに、逆になっていた。
知らぬ間にひっくり返されたらしい。
床擦れ対策なのだろう。
もう失ったと思った手足に少し暖かみを感じる。
何日目なんだろう。
どんどん思考の幅が狭くなる。
手は後ろ手にされているので性器どころか乳首すらいじれない。
でも自分の無力さになんとなく体の奥がぽうっと温かくなるのはなぜだろう。
お股の周囲や膣のあたりに力を入れると、なんとなくキュッと締まる感覚がして、うっすらきもちいい。
他に全くすることが無いので、無間の闇の奥で、性器周囲筋ばかりをキュッキュと締めつけて遊ぶ。
ああ、おっぱいにも筋肉があれば、胸もうすらきもちよくなれるのに。
…………
また寝ていたが、少し様子が変だ。
更にほんの少し呼吸が苦しくなっている。
トランクの合わせ目に目張りでもされたのだろうか。
息を我慢した時に感じるすっぱい吐息が狭い闇の中に充満している。
吸っても吸っても楽にならない。
それ以上苦しくもならないけれど、絶対に楽になれない僅かな酸素不足がずっと継続している。
この軽度の酸欠の継続は、底知れない恐怖と絶望を私にもたらせた。
普段なら息を止めても数秒から数十秒の余裕があるが、今の状態では僅かでも呼吸が遅れればそこに死が見える。
怖い……
出して……
お願い……
出して下さい……
お願いします……
御竦流を習ってきた私は、観念的にはあまり死を恐れていなかった。
死を受け容れるイメージをすることで刹那の間合いに平常心と余裕が生まれ、紙一重で勝利できるから。
でもそんな観念を押し流すほどの恐怖に晒されている。
死んじゃうよ。
助けて。
どんな屈強な男も屈服させられそうな残酷な呼吸制限責め。
ああ、また気が遠くなる。
目覚めれば解放されるという甘い期待が裏切られ続けることで絶対恐怖と絶対服従心を植え付けるつもりだろう。
負けたくないけど、ほんとうにもうゆるしてよう……!
絶望の回数のカウントも忘れたころ、ビビビと何かを剥がす音がして、そののちバチンバチンと留め金が外され、蓋が開いた。
「ああ……」
まぶしくて見上げられない。
下を向いた沙羅の長いブロンドの髪がパラパラと私の顔にかかる。
ゆっくり抱き起こされたが体がガチガチに固まっていてされるがままにしかならない。
スーツケースの中で後ろ手の体育座りにされ、ぐっと抱きつかれた。
「大丈夫ですか?」
沙羅の胸が顔におしつけられた。
革の表面は冷たかったが、すぐに沙羅の胸の体温を感じるようになった。
「ゴフゴフ」
ボールギャグを外してもらうと、口の周りから頬まで唾液だらけで、貫頭衣も胸が濡れていて冷たかった。
「ぷあっ」
「大丈夫ですか御竦さん」
「…………」
「もしもし?」
「ゆるして……」
沙羅が神々しく見えた。
「ゆるして…… ゆるして…… ゆるして……」
弱々しく繰り返す私。
「御竦さん、いい顔になりましたね。私の言うこときけばゆるしてあげます。嫌ならまたケースに逆戻りです」
「嫌あ!!」
私は真剣に怖くて絶叫した。
「ではポニーになってくれますか」
「はい……」
ついに私はポニーになることを承諾した。
「よかった。では明日からポニーの調教を始めます。今日は体をほぐしてください」
「はい」
しかし私は少し違和感を覚えた。
沙羅は私が陥落したことでもっと狂喜すると思っていた。
それに、このスーツケースによる長期拘束呼吸制限の恐怖から素直に従う気にはなったが、心の底の気分は初日に逃げ出し連れ戻された時の気分に近い。
いかに武道を極めていても、集団の攻撃や電撃、拷問器具には抗う術がないので、仕方なくしたがっているような気分が残る。
これもその一つのように感じた。
「体が動くようになったら食堂に来て下さい。待ってます」
「はい」
沙羅は私の手枷を前で繋ぎ直すと部屋を出て行った。
とりあえずスーツケースから出て、床にお尻をつけたまま足を伸ばす。
うわ、パンパンの尿バッグがついたままだ。
水分もろくに摂っていない状態でこれだけの尿が出たのだから、まる2日くらい経っているのかもしれない。
尿の色が黄色を通り越して茶色に近い。
傍に注射器があったので、見よう見まねで尿バックに繋がってない方のチューブに刺して水を抜くと、ヌヌヌと尖った快感を伴って尿道からチューブが抜けた。
汚い私の尿で膨らんだ生温かいバッグを抱えてその部屋を出た。
