人間万事塞翁がポニーガール
【奴隷】
全身ガクガクで全く無抵抗な私に、まず重い鋼鉄の首輪と手枷足枷を南京錠で施錠し、それぞれについている金具同士を別の南京錠で接続していった。
構成は、首輪の前に短い鎖で左右の手枷、そして足枷同士30cmほどの鎖で繋ぎ、片方には御丁寧に鉄球まで下げられた。
「こんな鉄球なんて本当にあるんですね」
「半分イメージを膨らますお遊びみたいなものですけど、それなりの効果はありますよ」
私は首輪に長い鎖を付けられ、それを引っ張られて移動した。
厩を出ると、すぐ裏手に平屋のコンクリート打ちっぱなしの建物があり、古びた鉄のドアを通って中へ入った。
ゴットンゴットンと鉄球が煩い。
試しに色々と仕掛けてみようかとイメージしたが、とても麓まで逃げ切れるルートに繋がらなかったので無駄はやめた。
古いリノリウムの剥げた廊下をしばらく歩いて、がらんとした空間にテーブルと丸椅子がいくつか置いてある場所に入った。
何人かの例の酪農家風ツナギを着た外人が、プレートに盛られた食事を食べていた。
「皆と同じものでいいですか? でなければカップ麺になります」
「は?」
「食事ですけど」
私はあっけにとられて思わず聞き返してしまった。
「私も普通に食べていいんですか?」
「はい、どうぞ。プレートは持てないので、運んであげます」
鍋釜の熱気の感じられない冷めた厨房のカウンターから出されたプレートを沙羅が2つ受け取って近くのテーブルに置く。
丸椅子を無造作に引いて私を座らせ、沙羅もこの小さなテーブルの向かいに座った。
プレートはまるで機内食のように最初から一式セットになって載っていた。
露出は少ないが女王様然としたコスチュームの沙羅と、立場のはっきりわかる木綿の貫頭衣を着て鋼鉄と鎖で拘束されている私。
猛烈に目立つはずだが皆黙々と食事をしている。
ということは、ここではこの光景は珍しくないということだ。
「もっとエサみたいのを食べさせられると思ってました」
「それはあとでです」
やっぱりあるんだ。
私は少し嫌な気分になって、下を向いて前屈みになり、短い鎖で不自由に連結された手でプレートのフォークを取った。
首輪と手枷の短い鎖をガチャガチャと鳴らしながら、それに引っ張られるようにラザニアのような食事を食べた。
「コーヒー? 紅茶?」
「コーヒーで」
壁際のサーバーでカップに注いで沙羅が持って来る。
「食べ終わったら廊下の洗面台で歯を磨いて厩に戻っていいです。今日はもうなにもすることないので寝てもいいですよ。トイレは廊下の突き当たりです」
「寝るって…… この格好でですか?」
「そのくらいは我慢して下さい。それともCravatの方がいいですか?」
「あれはもういいです」
私は言われた通り、一人で鉄球を引きずりながら廊下を戻り、途中の洗面台でそこにあった新品ぽい歯ブラシで適当に歯を磨き、トイレで普通に用を足して、勝手に厩に戻って、藁を自分で敷き直し、そこへボスンと身を落として横になった。
じっと一人でいると首輪や手枷足枷の重たさ冷たさが浮き上がってくる。
拘束されたまま眠るのも奇妙な感じで、次第にのこ不当な扱いの惨めさがどんどん増してくる。
鉄球なんてまるでバカみたいだ。
何もすることが無く、ただ藁にくるまっているうちに寝てしまった。
夜中に何度か目が覚めた。
藁がチクチクする。
古い西部劇のビデオなどで藁に寝るシーンが出てくるのを見たけれど、あれは服を着ているからまだいいのだ。
こんな裸に布一枚だと隙間からいっぱいクズが入って来る。
足の裏も土やコンクリートやリノリウムの上を素足で歩いて真黒だし冷たい。
スリッパくらいくれればいいのに。
色々なことがあたまに浮かぶ。
『私怨』って言っていた。
でも恨まれることなんて、身に覚えがない。
普通の食事もあれが最後なのかもしれない。
もうギッチギチのガッチガチにされて、『エサ』だけしか食べられないのかもしれない。
眠りが浅かったこともあり、早朝から目が覚めた。
何か奴隷のルールみたいなものは無いのだろうか。
気を利かせてやっておかないとオシオキされそうなことは無いか、しばらく思案する。
「おはようごさいます」
結局何も思いつかず、いきなりの来訪に飛び上ったが、特に咎められる様子もなかった。
「お、おはようございます」
「今日は朝食前に身支度をさせてもらいます」
ガラガラと音がして産婦人科の診察台のようなものが運び込まれ、男2人に足枷の接続だけ外されてそこへ乗せられた。
「ひや! 冷たい!」
「我慢してください」
手は首輪に短い鎖で繋がれたままで、首輪はうなじで診察台に繋がれ、足は鉄球を外され、M字に開いた姿で左右別々に繋がれた。
貫頭衣が垂れているのでお股はまだ見られてはいない。
男達が出てゆくと沙羅と私だけとなり、何の遠慮もなく貫頭衣を捲られた。
「ひや!」
「いろいろ質問させてください。男性経験は?」
「ありません! というか、そういうこと全然疎いんです」
「自分では触ったりしますか」
「触らなければ洗えません!」
沙羅はきょとんとした表情になってから、ふっと笑った。
「すみません、そういう意味ではなくて、オナニーはしますか?」
「しません!」
言葉は知っていたので反射的に答えてしまった。
沙羅は真剣に驚いた顔になった。
「え? 一度もですか」
「そんな暇ありませんし、そんな気にもなりませんでしたから」
そこまで言い放ってから、自分が非常に変な女の子だと思われている事に気付いて真っ赤になった。
沙羅は少し曇った顔をした。
「あなたも、おじいさんの犠牲者なのですね。私も確かにそうでした。そんなあなたに私怨なんて少し心が痛みます」
「え?」
「わかりました。今日はそういう日にしましょう。何事も最初が肝心です」
「ええ?」
「あの、大股開きさせたまましんみりした話はやめてください。恥ずかしくて死にそうです」
「ワオ、御竦さんのここは美しい陶器のようですね」
「『ワオ』なんてやめてください! しりません、そんなこと!」
「まずは脱毛からです。ここにイスラエル製の脱毛器があります。御竦さんの肌は真っ白で、毛は黒くて、色素沈着もほとんどないのでこの脱毛器の威力は超最大効果です」
「沙羅さんの日本語は上手ですが時々変で怖いです」
「意味が通じればいいです。さっそくいきます。まぶしいのでこちらを見ないで下さい」
「え?」
毛のないヘアブラシにコードがついたようなものを股に当てられ、パウッとカメラのフラッシュのように光った。
「ッ!」
軽い痛みと熱を感じたが一瞬だった。
器具を離し、沙羅が私の飾り毛を撫でると、驚くほど簡単にスルリと抜けたが、少し残った。
「もう一度」
発光部をあて、すかさずパウッと光った。
痛みは毛の本数に比例するようで、今度はほとんど痛くなかった。
角度を変えてあと数回パウパウと当てられた。
「きれいになりました。しばらくしたらまたやります」
私の位置からつるつるにされてしまった割れ目が見える。
「質問を続けます。生理は順調ですか? 量は」
「順調です。友達と話すと、多い方ではないらしいです。聞く話よりもさらっとしていて、期間も短いです」
羞恥を抑えて極めて事務的に返答する。
恥ずかしいと思ったら負けだ。
「便は?」
「だいたい1日1回ちゃんと出ます。これも友達の話から、やや硬めでまとまってる方だと思います。食事が不規則になると2日に1回くらいで、便秘気味になります」
「わかりました。今、出したいですか?」
「緊張していてそれどこれではありません。出ないと思います」
「今出ないのでは今日の課題に問題がありますので浣腸をしましょう」
「ちょ、エーーーッ!?」
パニックになりそうな心を抑えて冷静な口調を保っていた私が、一瞬で絶叫するような申し出。
「したことないですか?」
「ありません! 怖い!」
「では拘束調教のスタートは無力な拘束浣腸責めにしましょう。オウ、手は左右の方が心理的効果大です」
「嫌! 嫌ぁ!」
私は未知の事柄に対する恐怖と、排泄を他人に見られるという最悪の羞恥をいきなり宣言されて台上で暴れた。
男2人が入って来て、私の晒された股間には一瞥もくれず、私の手を首輪の接続から診察台の左右に万歳するような格好に繋ぎ直して出て行った。
「非常にシンプルです。浣腸液を入れる、我慢する、我慢できなくなって出す、私に従う気分になる、というわけです」
「嫌! 汚物を他人に見せるなんて!」
「私もあまり得意ではないので、このバケツにビニール被せてペット用ゼリーシーツを入れて、消臭剤の顆粒が加えてあります。まさに非常仮設トイレと同じ構造ですからパーフェクトです。それを3つ用意していますから、万が一にも汚くなりませんよ」
沙羅は片手に手術用の手袋を嵌めると、ローションを指に取り、私のお尻の穴へ塗り込めた。
「ひい!」
「力を抜いて下さい。少し中へ染み込むと楽に入りますから」
何かがお尻の穴に触れたが、挿入感は無い。
「先が入りました」
「え?」
尻に挿入される異物に対し何の抵抗もできなかったことに真っ青になる。
油にまみれた手で真剣白刃取りをして、脳天を切られた気分だ。
お尻の穴をすぼめたが、それをあざ笑うかのように勝手にすーっと奥まで軽い挿入感があって、お腹の奥が冷たくなってきた。
その後ツッとお尻の穴に何か触れた感じがした後、体を起こした沙羅の手には潰れた浣腸パックが握られていた。
「嫌!」
沙羅は事務的にそれを畳んで捨て、私のお尻の下に先程説明していたバケツを置いた。
拉致される前から溜まっていたので、私のお腹はすぐに反応を始めた。
「っ、くぅ…… 」
沙羅はにこやかに立って正面から見ている。
無音で圧力が高まり、かなり出したくなってきた。
「我慢しても結局出るので、私に従う気持ちを早く心の中に植え付けた方が楽ですよ」
「い、嫌っ! ですっ!」
沙羅は外国人特有の両手を拡げて残念そうなポーズをした。
お腹がすごい音を立てている。
浣腸液もガスも完全に大腸全部に染みわたって、便をやわらかくし、ガスをどんどん発生させている感じだ。
自分でも抵抗は無駄だとはっきりわかってる。
でも武道でそれなりに鍛えてきた私は、そう簡単に諦めの気持ちを持つことができない。
なんとかなるはず。
でも……どのようになんとかなるのだろう。
ガス圧に勝って、漏らさなければ、沙羅が諦めて、もう出さなくていいですとでもと言うのだろうか。
そのあと食事時に立ち寄ったあのトイレで普通に出してスッキリするのだとでも。
「うあっ!」
不意に強圧が襲い、ピュルッと数滴漏れた。
「嫌ぁ!」
だが、まだこんな思考回路が働くのは全然序盤だったということを思い知った。
排便要求というのはどんな自制心をも破壊してしまうほど凄まじい。
どんどん便意が増してくる。
厳しい拘束の中での排泄の我慢がこれだけ惨めで心を引き裂くものだとは。
私はうんちしたいという一念と羞恥心との狭間で、拘束台を軋ませて気が狂わんばかりの我慢をしていた。
噴き出す脂汗が目に入って痛い。
波状に襲ってくる便意の狭間で呼吸を整えながら、渾身の力で肛門を締める。
それでも数滴漏れ、少し匂いがしてきた。
「うああああああああ〜〜」
次第に思考が削がれてきて、混沌とした意識の中で絶叫しかできなくなってきた。
涙まで飛び散る。
ああ、羞恥さえ捨てれば今すぐ解放されるのに!
「御竦さん、もういいですよ、すごい意思の力わかりましたから。ほらバケツ持ち上げてあげます。これならあまり見られないで済むでしょう。私も直視しませんから、ほら、横向いてますから、出していいですよ」
悪魔の言葉だ。
悪魔の言葉ってわかってる。
でも、そこまで妥協されたら…… もう……
お尻にバケツの縁が触れたのを感じた瞬間に、全ての我慢が決壊した。
「ああーーーーっ!!」
最初に液が出て、太くて長いのが延々通過する気持ち良さが続き、ボトリと野太い音が耳に届いたあと、細かい塊がぷりゅぷりゅと通過して羞恥の排便は終わった。
「ああっ…… ふぅっ……」
人間として最大の羞恥と、そして最大の安堵感に襲われた。
脂汗の浮いたお腹を波打たせ、残りの液をりゅりゅと排泄する。
沙羅は私のお尻をウエットティッシュで拭うと、すぐにバケツのビニールを閉じ、傍にあったスプレーを空間に噴いた。
匂いはうそのようにすぐ消えた。
「ああ、御竦さん、新記録かもしれません。すごいです」
まだ診察台に拘束されたまま呆然と排泄後の心地よい余韻に浸る私を抱き締め、小さな布で私の額の汗を拭う。
私をポニーにして売ろうとしている悪いやつなのに、浣腸の我慢を誉められただけで何かを委ねそうになっている自分が怖かった。