人間万事塞翁がポニーガール

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  【厩(うまや)】  

 小屋は厩のような所で、土の上に藁が厚めに敷いてあるだけだった。
 その女性は私に鉄の首輪を嵌めると、鎖を小屋の柱に繋ぎ、手錠を外した。
「しばらく待っていてください。着替えを持って来ます。制服汚すと困るでしょう?」
 ということは、これは何か一時的な取り扱いで、すぐに解放されるのだろうか。
 女性を睨みながらミシミシと藁を踏み馴らしてそこへ腰を下した。
 30分か1時間くらいか後に、酪農家のようなツナギを着た外人の男性が入って来た。
「キガエテ・クダサイ。ヌイダモノハ・ココヘ。シタギモデス」
 この人は日本語はあまり得意ではないようだ。

 渡された物は、私の身長半分ほどの、ふんどしのように真っ白な木綿の布に紐がついたものが2枚。
「コレヲ・カタデ・ムスビマス。コレハ・コシデ・ムスビマス」
 手術着なんて着たことはないが、たぶんこんな感じだろうか。
 2枚の縦長の布を、肩の紐で結んで前後に垂らし、腰の辺りの紐で締めると、何とも頼りない貫頭衣になった。
 これは後から自由自在にに脱がせることができるということだろう。
 男の腰に鍵束があるのを見つけた。
「着替えるから出ていてください」
「オウ! ソリイ」
 少し笑って一度小屋の外へ出た。

 靴と靴下はそのままにして、とりあえず言われた通りに全部脱いで、その頼りない服を身に着けた。
 スウスウしてかなり寒く感じる。
 制服と下着は畳んで、指定されたビニール袋に入れた。
「どうぞ」
 私が声を掛けると男が入って来た。
「オウ! クツモヌイデクダサイ」
「でも、ここが変なんです」
「What?」
 不用意に近づいた男の首を捕え、ゴキリと捻ると、死なないまでも気を失う程のダメージを与えた。
「グブ…………」
 倒れた男の腰から鍵を取り、2つ3つ試してやっと首輪を外した。
 袋に入った制服を抱えて、変な貫頭衣の姿のまま小屋を飛び出した。

 なんとか麓までおりれば助けを求められる。
 小さな古びた鉄の門を乗り越えて、小枝や葉っぱがうずたかく散る小路を必死で走った。
 やっと国道のようなアスファルトが見えて来たと思ったら、目の前を真黒いものが遮った。
 朝のワゴン車だ。
 横の扉が開いて、あの女性が出て来た。
 今度はスーツではなく、全身革づくめの女王様のような衣装を着ている。
「逃げられませんよ」
 私は無言でその女性に突進していった。

 簡単なことだった。
 日頃から空気を呼吸するように手が動くようになっていたから。
「御免」
 私は小さく謝って、革づくめの無防備な腹に一撃を喰らわす。
「う!」
 これで勝敗は決まり、私は運転手を脅してでも麓へ行く。……はずだった。
 ところが。
 女性は後ろへ少し下がっただけで、手応えが変だ。
 今後は剥き出しの顎と首を狙う手刀を繰り出す。
 入ったと思ったが、やはり手応えが浅い。
 技が通じない焦りを感じた時、背中から電撃を浴びせられて気を失った。
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