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  調教のはじまり  




§§ 調教のはじまり §§

 ついに、私が調教を受ける朝がやってきた。
 なんで私がこんな目に遭わねばならないのか。
 それはもう散々自問自答しつづけてきた。
 きっと人はそれぞれ与えられた運命や使命があるのだ。
 『運命は自分で切り拓く』
 そんなのうそだ。
 私のように生まれた時からすでに決まっている人間にとってそんな言葉は全く無意味だ。

 暑い朝、お母さんに起こされるより先に目が覚めた。
 このベッドとももうお別れかもしれない。
 そう思うと悲壮感が漂ってくる。
 これから自分が酷い目に遭うんだという実感が込み上げてくる。

 パジャマを脱ぎ、出してあったワンピースに着替える。
 こんな日常的な雰囲気の先に、私を奴隷化しようというおじさまの策略が待ち受けているなんて想像できない。

 荷物は何も持たず、そのまま下に降りた。

「おは…… よう……」
 台所にいるお母さんの目は真っ赤だ。
 お父さんはもう食卓に座っていた。
 絽以も一緒だった。
「珠里になにもしてやれないのが…… 悔しくてたまらない……」
 さすがのお父さんも今にも泣き出しそうだ。
「いいよ、お父さん。これが王家の娘の運命なら、甘んじて受けるよ。私だって必ずおじさまの奴隷にされちゃうわけでもないし。しかもヴァージンは絶対保証されてるわけだし。アハハ」
「わあぁぁーーん!」
「わあ、お母さん! 泣かないでよ、もう」

 ―― ピンポーン ――

「あ、来たのかな?」
「えぐっ……! グスッ……!」
「……自分で出るね?」
「グスッ…… あ、ちょっと! 珠里!」

 トントンと玄関を降りてドアの穴を覗くと、黒いスーツ、黒いスラックス、黒いネクタイと、まるで映画のなんとかブラザースみたいなお姉さん2人が立っていた。
 一人は髪が長く、一人はショートカットで、さすがにサングラスまでは掛けていなかった。

「はい……」
 怪訝な顔をしてドアを開ける。
「こんにちわーーっ! ジュリア姫様ですよねー? よねー? よねー?」
 髪の長い人がいきなり明るい調子で話しかけてきて面食らう。
 金髪のロングヘアにゆるくウエーブがかかっていて、かなりのボリュームに見える。
 瞳はブルーだ。
 いきなりジュリアって呼ばれても、実感沸かないんだけど。
「あ、はい…… そうですけど……」
「お迎えにきましたー! 行きましょ? 行きましょ? 行きましょ?」
「あの、おじさまのお迎えの方ですか?」
「『おじさま』って…… コメドゥ様のことですよね? そうです。『おじさま』に言われてお迎えに上がりました」
 黒髪のショートカットの人が落ち着いた口調で答える。
 瞳の色は薄い茶色で、鼻がすごく高い。
 二人とも流暢な日本語だ。
「あ、はい、えと……」
 私がどう答えていいか迷っていると、二人は視線を私の肩越しに奥へ移しペコリとお辞儀した。
「あ、こんにちわーーッ! マチューズ王ですよねー! あ、お后さままで! 先日は電話でどーもーッ! お姫様お預かりしますーー!」
 髪の長い人がペコペコと何度も頭を下げている。
 ショートカットの人は深く一礼した。
 振り返ると、お父さんもお母さんもあっけにとられているようで、ひきつった顔をしていた。
「あ、お見送りできますよー! どうぞー! 姫様はこちらへー! あ、手ぶらですか? 携帯くらい持っててもかまわないですよー?」

 家の玄関から少し行ったところに黒塗りのリムジンが停まっていた。
 髪の長いお姉さんがドアを開けてくれ、髪の短いお姉さんが私より先に乗り込んだ。
「どうぞ」
「あ、はい……」
「珠里、これ……」
 お母さんが携帯を持ってきてくれた。
「ありがと」
「もう少し奥へお願いしまーす!」
 私が後部座席の中央まで詰めると、髪の長いお姉さんがドア寄りに座り、ばたんとドアを閉めた。
 左右をおじさまの手下?のお姉さんに挟まれ、まるで護送される犯罪者みたいだ。
 でも、すぐに窓を開けてくれた。
「お父さん…… お母さん……」
「珠里!」
「ウッ…… 珠里…… ウッ……」
「いってきます…… で、いいのかな……?」
「大丈夫ですよー? ちゃーんとコメドゥ様の奴隷ちゃんになって、アレ一式を身に着けたら、すぐにお帰ししますよー? あとは自由にしてていいんですもん。アナムネへ帰るまでですけど、学校にだって行けますよー? アレ着けたままですけど」
「そうそう、調教なんて、すぐ終わりますよ」
「ではー!」
 お父さんたちにろくにお別れも言えぬまま、黒くスモークのかかった窓が閉じられ、車が走りだした。



§§ 車内での恥辱 §§

「はー、これで一安心っと。 ご挨拶が遅れましたー! 姫様、はじめましてー! あたしユックでーす!」
「あたし、ニルです」
「はぁ、どうも、はじめまして……」
「タハッ! 緊張してますねー? そんなんじゃ身体もちませんよー? ほらほらもっとリラックスリラックス」
「む、むりですよう!」
「そうかぁ…… あ、そだ、ワイン飲みます? いいの入ってますよー?」
 リムジンなんて初めて乗ったけど、内装は全部高級な革張り、床は絨毯、運転席は椅子とガラスで完全に仕切られていて正面中央にはミニバーが内蔵されている。
「あ、あの、あたしお酒は……」
「そうですかー。残念ですねー」
「ごめんなさい……」
「いやだなぁー! なに言ってるんですー? 姫様だから別にわがまま言っていいんですよー」
「あ、はい……」

 車は高速道路に乗り、同じ車線をずっと安定して走っている。
「あの、遠いんですか? そこまでは」
「すぐですよ。昔からの温泉街の近くの別荘地をごっそり買い取って造ったらしいですから。と言っても、山ばっかりの中ですけど」
「へぇ……」
「あ、こんなことしてるうちにすぐ着いてしまいますね。姫様、着替えてください」
「ええっ? ここでですか?」
「そうですよ。大丈夫です。ドライバーにも他の車にも見えませんから。窓ガラスにはスモーク入ってますし、運転席との間のこの窓はマジックミラーですから」

 ―― ドク ドク ドク ドク ――

 ついに来た!
 このお姉さんたち、明るく言っても、慇懃な態度でも、やることはやるつもりだ。

「まずー、姫様の髪の毛ぇ、うわっサラサラー! ひみつ教えてくださーい!」
「え、ひ、ひみつなんてないです。いつも洗いっぱなしで…… まぁ長いんでブラシくらいはしますが……」
「こらこら、ゆーちゃん!」
「あー! やばやば。ごめんなさーい! サラサラのひみつについてはまたあとでー! えーと、姫様髪の毛長いので、アップにさせてくださーい!ってのが本題でーす」
「あ、い、いいですけど……」
「じゃ失礼しまーす!」
 私がユックさんの方に後頭部を向けると、ユックさんもロングなので慣れているのか、私の髪を軽い三つ編みにしてからくるくると丸め、数本のヘアピンで留めた。

「これでよし、と。 暑つっー! あたしたち、先に脱ごっ?」
「うん」
 私の両脇で、お姉さんたちは上着を脱いで畳み、ネクタイを外し、ワイシャツを脱ぎ、ズボンも脱いだ。
 私は脱いだ格好を見てギョッとした。
 二人とも、真っ黒なエナメル地の水着のようなものを着ていたからだ。 ズボンの下には同じエナメルのロングブーツを履いていた。
「ゆーちゃん、それかして」
「はーい、おねがーい!」
 ユックと名乗ったお姉さんが脱いだもの一式を渡すと、ニルと名乗ったお姉さんが自分のと合わせて足元の袋に仕舞った。
「つぎー! 姫様のばーん!」
「えーーっ!」
「ほらぁ! あたしたちも脱いだからぁー 姫様も脱いでー?」

 もう、もうこんなところから調教は始まっちゃうんだ……
 覚悟はしてた。
 なんども自分の部屋で全裸になってみたり、そのまま床に寝て見たり、ちょこっとだけ廊下に出て見たりして、恥ずかしさに慣れる練習をしたつもりだった。
 でも、いざこんな車の中で、他人の目の前で脱ぐとなると、すごい抵抗がある。

「はい……」
 言ってはみたものの、指が震えてボタンが外せない。
「あーもう! お手伝いしますねー!」
「ダメよ、ユックちゃん! 自分で脱いでもらいなさいって……」
「あーそうでした! すみません、姫様」
「あ、い、いいんです」
 高速道路の轍(わだち)でゆるやかに揺れる車内で、ワンピースを脱ぎ、ブラを取り、サンダルを脱いだ。
 そう、もともと脱ぎやすい服装にしてたんだった。
 ぎっちり着込むと、脱ぐ時の羞恥心が増すような気がして。

 素肌に触れる革シートが冷たく、素足に触れる絨毯が心地よい。
「きれいですね。やっぱり姫様、素敵です」
「すごーい! キメ細かい肌ぁー!!」
「あ、ど、どうも…… ていうか、ニルさんもユックさんもすごいじゃないですかぁ」
「わ、うれしー! 姫様にほめられたー!」
「タオル敷きますから、最後の一枚も脱いじゃってください」
「エッ! は……はい……」
 座席にタオルが敷かれ、私はパンツに手をかけてスルリと脱いだ。
 脱いだものを全部ユックさんに渡すと、ニルさんは自分たちの服を入れたのと同じ袋に仕舞った。
「はーい! 姫様の奴隷用コスー! まず首輪ー!」
「エッ!!」
 ユックさんが出したのは、赤茶けた革製の首輪。
 厚みは5mm以上あり、幅広の本体を補助ベルトが2本並んで留める構造。
 しかも小型の鍵がついている。
「これを…… 嵌めるん…… ですか……?」
「そうでーす! 見るからに定番でしょー? んもう! 姫様わかってるくせにぃ!」
「それは…… そうですけど……」
「はい、自分で巻いてー!」
「あ、はい……」
 手渡されてから良く観察すると、ものすごく古いもののようだった。
 それでいて手入れは良くされているようで、分厚いのに手触りはしなやか、だけど着けられたものの自由を許さない無慈悲な硬さももっていた。
 色はもともとは赤く染められていたようだけれど、ほとんどハゲ落ち、内側は何人もの人の汗を吸い続けたようにしっとりとしていた。
「はやくー! 姫様ぁ!」
「あ、すみません」
「大丈夫ですよーぉ! その首輪は歴代の王女を調教する時に使われた由緒正しいものなんでぇー、すーんごく古いんですけどー、ちゃーーんとあたしたちがメンテしてますからー! 裏地も革が痛まない方法で消毒してあるしぃ、ミンクオイルたっぷり染み込ませてあるからギシギシしないでしょっ?」
「は、はぁ……」
 やっぱりそうなんだ。
 この首輪は何人もの王女の汗を吸ってるんだ……
 いったい、どんな状況で流された汗なんだろう……
 これからどんなことをされるんだろう……
 心が震えて、心臓が押し潰されそうだ。
 怖くない……
 怖くない……
 みんな耐えたんだ。
 あたしにだって、きっとできるはず。
 いや、ただ『できる』だけじゃダメなんだ。
 それを乗り越えて、お父さんに言われた使命を果たさないと……

 見た目より遥かに重い革の首輪を、自分の手で首に巻き、震える指でベルトを留め金に通した。
 「そうでーす、そこで合ってまーす。あ、留め金の穴は1つですから、そこでいいでーす」
「歴代の姫様の体格はほぼ同一なんです。サイズは姫様専用ですから、ぴったりだと思います」
「はい、南京錠! 2コありますよ〜」
「これは?」
「やぁだ、姫様が勝手に首輪を外したりしないようにするためですよー! 南京錠、通すとこまでやりますからぁ、自分でパチンて。ね?」
 ユックさんが私の首輪の留め金に南京錠を通す。
 よく見えないけど、2本の細い革ベルトそれぞれの留め金に鍵を掛ける構造らしい。
「ここ、こうつまんでー! はい、パッチーン!」
 ―― カチリ ――
 言われるままに指先で小型の南京錠を施錠する。
 分かってたつもりだけど、心に刺さる、乾いた音。
「もうひとつ! パッチーン!」
 ―― カチリ ――
「はいよくできましたー!」
 少しきつめに出来ているらしく、なんとなく息苦しい。
 いくら消毒されていると言われても、内側のじっとりした感じが、何人もの狂った王女の汗を思い出させて気味悪い。

「手枷と足枷はあたしたちが嵌めてもいーって言われてるんで、やらせてもらいますねー!」
 両側から左右それぞれの手を取られ、手首に首輪と同じ赤茶けた革の手枷を巻かれ、それぞれ1つずつの鍵で施錠された。
 手首にも歴代の王女の汗の冷たさが感じられ、その冷たさに肩の付け根までしびれたような気分だった。
 足首にも同じ赤茶けた革の枷が施錠され、まるで鉛でも仕込んであるかのように、足首がズッシリと重くなった。
「うはぁ! 姫様、刺激的ィ!」
 ユックさんが言う。
「ああ…… あたしもうだめ……」
 ニルさんもヘンなこと言うのでちょっと驚いた。
「もんじゃおっか?」
「もんじゃおう もんじゃおう」
「エッ!! 何を?」
 いきなり右と左から、左右それぞれのおっぱいを別々に掴まれ、優しく揉まれた。
「ひやあああ!!」
「姫様のおっぱい、やわらかい!」
「やわらかい やわらかい」
「ちょっ! あのっ! パンツ! パンツとか! ないんですか? 革製でもなんでもいいですから! ひやっ!」
 おっぱいを揉まれながら、必死で訴えた。
 2人が手を止める。
「んーー、あるけどぉ、姫様には使えないからーぁ」
「あるなら穿かせてください」
「あーこないだのあの子、のりちゃんだっけ? あの子に使ったヤツならあるけどーぉ…… ニルちゃん、出して?」
 ニルさんが座席の脇をゴソゴソいじって、革製のパンツに2本のグロテスクな棒がついたものを取り出し、私に見せた。
「キャッ!」
「先日、お友達の中西典子さんをお招きした際に使ったものです。姫様は処女を守らなくてはならないので、これはお使いになれないですねぇ」
 私は典子ちゃんのことを一気に思い出した。
 先生が、典子ちゃんはエッチなことされなかったって言ったのはウソだったんだ。
 男の人に犯されたわけではないけど、こんな棒に処女を奪われちゃったんだ。
「そうだ! 典子ちゃんにあんなひどいことをしたの、あなたたちなんですかっ?!」
「えー? そうですよー? アハハ、でも姫様、あれで『ひどいこと』なんて言ったらダメですよー? 姫様はもーーっとすごいことされちゃうんだから」
「ひッ! いやああああああ!!!」
 手枷足枷のついた手足を縮めて絶叫した。
 鍵を掛けられ、もう外せなくなった手枷足枷の重さが、すでに私が逃げられなくなったことを象徴しているようだった。
 犬にされ、校門に繋がれちゃうよりももっとひどいことって……?

 だめだ。
 気丈にしてるつもりでもどんどん壊されてゆく……
「だーいじょうぶですよぉ! 姫様だったらぜーんぜん平気ですってば! そのうちそれが大好きになっちゃってぇー、きゅーん、きゅーんて犬の鳴きまねなんかして、あたしたちにムチをおねだりするようになるんですからーぁ!」
「いっ! そっ! そんなふうにはなりません! あたし!」
 私の一言に、ニルさんもユックさんも、目がトロンとして顔が紅潮してきた。
「あああ、姫様のお言葉、ゾクゾクします……」
「あああーん! スッゴイ! 姫様ァ! 姫様の言葉だけで、アタシもうイキそう!」
「な? なんで……? あ、あたし何を言いました?」
「おっしゃった通りですよ。毅然とした姫様、最高です。そんな姫様をブッ壊すことができるなんて、あたしたち幸せです。最後の最後まで毅然としていてくださいね」

 ―― ゾクゾクゾクゾク ――

 恐ろしさに悪寒が止まらなかった。
 私が気丈にしようとすればするほど、この人達は私のこれからの様子と比較して勝手に興奮するんだ。
「あああ、姫様もう一回言ってくださぁぁい! 『そんなふうにはなりません!』って!」
「そっ、そんなふうには……! ウ…… ひっく……! ……うわああああああん!!」
 とうとう泣いてしまった。
「ゆーちゃん、やりすぎよ? 気丈さギリギリで楽しまなくちゃダメなのに」
「テヘッ! しっぱい、しっぱい! 姫様ごめんなさーい!」
「申し訳ありません姫様、私も調子に乗ってしまいました」
「ひっく、ひっく、うぐっ…… グスッ……」
「はい、ティッシュ」
 無言で受け取り、ズビームと鼻をかむ。
「落ち着きました?」
 コクリと頷く。




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