触手マスク

 |   |  目次  |  小説目次




 いやだ!!って叫びたいのに、ねばつく口を、言うなりに開くのが……きもちいい。

「ぷあっ……」

「お、いいね。そら、咥えて……」
「んちゅっ。」
「できるじゃん」
「んーー!」
「睨んでももう無駄だよ。押すよ?」
「んーー!!」
 触手でできたおちんちんの先が喉の奥にあたってつっかえる。

「さあ、こっからがちょっとコツがいるのさ。『アーー』って言う感じで、『オエッ』ってやってみ?」
「ムイ!!」
「ほらぁ、がんばって」
「『ア”〜〜〜〜〜』オゴア!!」
 無理にマーサが押すと、そのままガボンと喉まで塞がれた。

「オッ! オエエエ!! オエエエ!! ンッ!! ンッ!!」

 一瞬で完全に窒息状態。
 嘔吐反射と呼吸不能のパニックにいっぺんに襲われた。
 どっちか一方でも苦しいのに、同時なんてありえない!!

 マーサはあたしのパニックを無視して、あたしの顔面を覆うマスクを顔に被せた。
 顔を振って拒否しようにも、喉のモノごと顔の動きに追従して振りほどけない。
 裏地が気色悪いツブツブになってる以外は、暗い紫色した単なる楕円形のマスクは、あたしの顔に貼り付いた部分から、ビチビチと水っぽい音を立てて顔の凹凸に精密に密着しはじめた。
 その拘束感がどんだけ容赦ないかは、既に胸や股間や腰の締めつけでこの一週間、たっぷりと味合わされている。

 極太ペニスで気道まで塞がれ息が出来なかったため、鼻の穴が明いていないことにすら気付かなかった。
 マスクは髪の毛まで包み込み、後頭部から耳、更にうなじから首周りまで全部覆ってしまった。
 ツインテールにした部分だけはそのままなのが髪の毛の重さでなんとなくわかる。

 もう死んだ、と思った。

「クヒッ…… クヒッ……」

 しかし、喉に物が詰まったままでもその僅かな隙間から呼吸できてる音が自分の耳に届いてきた。
 声を出さずに「アーー」って言ってると、喉の奥が少し開くんだ。

「フシッ…… フシフッ……」

 頭部顔面を完全に封鎖されたまま、触手のどこだかが僅かの隙間から供給してくる空気を貪り、喉いっぱいにモノを詰め込まれたまま過ごす。

「どうだい? 呼吸を奪われて、喉を犯されると、なんでも認める気になっちゃうだろ? 僅かな空気の通り道をほんのちょっと塞がれたらもう死んじゃうわけだからね」

 コクリと頷こうとして思いとどまり、あたしは首を横にブンブン振った。

 あたしの頭は完全に蕩かされそうだったけど、なんでも認めてしまうと、マーサやベッキイさえ追い越してあたしは滅茶苦茶になってしまいそうだったから。

「うえ、クリスってとんでもない子だったんだね。ものすごい耐性か、でなきゃトコトン否定して責めをおねだりしてる弩(ど)マゾか」
 じょ、冗談じゃないわ!
 ブンブンを首を横に振る。

「アハハ、さすがに後者じゃないみたいだね。ああ、でもそうすると、私がやられたアレ、やられちゃうね。お、もう袋ができ始めてるよ?」

 なによそれ!
 袋って……?

「私がこれやられた時はこんな顔マスクなしで触手に喉まで塞がれてたんで、何されてるか見えてたんだけど、クリスは見えないから何もわかんないよね?」
「ウウーーー!!」
「アハハ、えっとね、今クリスの頭を包んでる全頭マスク状の触手の口の辺りに、毛糸玉の倍くらいの大きさの袋が出来たんだ。中味はからっぽで、もうすぐ喉と繋がるから息は少し楽になるよ」
 言われたそばから、喉まで届いてるペニス型触手に管が通ったような感じがして、シュッと呼吸が楽になった。
 それまで隙間を無理に通過してた空気が、まとまって通るようになった。

「シューーッ! シューーッ!」
 でも管が細いらしく、普通通りってわけにはいかない。

「アハハ、クリスの呼吸の様子がよく見えるよ」
「???」
「クリスが息を吐くとこの袋が膨らみ、吸うとしぼむんだ」
 なにそれ?
「クリスは自分の吐いた息をまた吸うことになるんだけど、吐いた息にもまだ呼吸の素は残ってるから、2・3回同じ息を吸ったって死にゃしないさ。ただし、恐ろしく苦しいんだ」
「ンーーー!!」
 とんでもない話を聞いて、ジタバタするけど、手足をそれぞれ棒状に融合拘束されていて全く動けない。
 こんな状態で指先すら動かせないのは、本当に恐怖だ。

「で、袋の下にはちゃんと外気を摂り入れる口もあるんだけど、袋内の呼吸の素の濃さを袋自身が監視してて、死んじゃいそうなギリギリまで開けてくれないんだ」
「ン”−−−−−−−−−−−!!!!!」
「知ってるかい? ギュっと首絞められて死ぬより、じわーーっと息苦しくなる方が、すごい恍惚に襲われるんだよ」
「ン”−−−−−−−−−−−!!!!!」
「ン”−−−−−−−−−−−!!!!!」
 ドッタンバッタン暴れるけど、やっぱり動けない。

「あ、私がやってるわけじゃないから! 解説してるだけだから。 誤解すんなよ? ご主人様のおしおきだろ?」
「ウーーー」
「それにそんなに暴れると、すぐに気を失っちゃうよ?」
「ウウ……」

 シューッ、シューッとマスクの外に新たな呼吸回路が出来たのがわかる。
 マーサの言うように、自分の呼気を吸い直してる匂いがする。
 あの、何とも言えない金属質な限界を示す匂いが。

「シューーッ…… シューーッ……」

 抵抗を諦め、なるべくゆっくり呼吸しながら、どうやって楽にやり過ごすか考える。

「コツは何度も言うように、心に穴を明けるつもりで、全部受け容れる気分になるこった。……私はこれで……『堕ち』たんだ……」

 ゾクリ……

 マーサの語調が最後だけ変わり、人間が変化するほどの過酷な責めだとわかって恐怖した。

「あ、悪い、もう仕事に戻らなきゃ。万が一にも死ぬことだけは無いから、安心しな。精神はどうか知らんけど」

 ひ!!

 滅茶苦茶に脅かしてマーサは出て行った。


小説目次  |  目次  |   | 
 

powered by HTML DWARF