咽頭拘束

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 こんな姿でなければ絶対楽しそうな、のどやかな一面芝生の裏庭。

「とにかく最初は戦車なしの単独ランニングです。この厩(うまや)から裏庭を囲むように小路がありますから、そこをまず一周してください」
 ざっと見たところ、一周の道のりにして500mはありそうだ。向こう側の道は見えないほど遠い。

 コクリと頷いて、そのまま道に沿って走り出す。
 最初この城に着いた時に見た戦車隊の馬役の子は、後ろ手にアームザックで拘束されてたけど、今の私はまだ免除みたいなので手を普通に振る。
 こんなハイヒールのブーツで走るなんて全く想定外だけど、脱げないからとはいえ、自前の履きなれてるものを流用してもらってるのでまだ有難い。
 革の戦闘服から飛び出ている、国宝の枷の金具部分を傷付けないように神経を遣う。

 ハァ……
 ハァ……
 ハァ……

 狭い呼吸穴と不自然な爪先立ちで走るため、あっという間に息が上がってしまう。
 学校では体育のマラソンだって、いつもわりと上位の方には入るんだけどなぁ。

 やっと一周したら、ティアちゃんからまた命令。
「まぁまぁですね。早く慣れないといけないので、『やめ』というまでずっと走り続けなさい。別にスピードは出さなくてもいいです」
 えーーーっ!!?
 マジ?
 きっついよぅ!

 私の反抗的な眼の表情はティアちゃんには見えないんだけど、私がティアちゃんの方に顔を向けたのがわかったのか、ティアちゃんが鞭を振りかざしたので、仕方なくそのまま続きを走り始めた。

 ハァ……
 ハァ……
 ハァ……
 ハァ……

 最初は緊張と不快で、なるべく楽に走ることしか頭になかった。
 でもだんだんハイヒールで土の上を走るコツを掴んできたら、緊張の一部が解れ、体内に挿入された異物が気になりはじめた。
 膣のディルドーはまあ慣れもあるし、学校の体育もこれでやってるんだからとりあえず問題ないとして、お尻に差し込まれたロッドシール公の張り形については、お尻の穴ミチミチに開きっぱなしという状況もあって、物凄く刺激を感じるようになってきた。

 多分硬い木彫りの棒なのだろう、すごく重く、走る体の上下動に合わせて、一歩遅れながら狭い距離を、肛門を上下に甘く擦り動く。
 少しずつ染み出す腸内の精液の残りが潤滑油となり、ほんとにだんだん気持ち良くなってきてしまった。

 ちょっと気持ちいいと思い始めると、……もう止められない。

 しかも立ち止まることもできない。
 可能な限り速度を落としても、張り形を制止させるほどゆっくり歩いていれば、多分あとで鞭が飛ぶ。

 ハァ……
 ハァ……
 ハァ……

 今度は全然別な理由で息が荒くなる。
 お尻、ヌプヌプ言ってるゥ!

 何か真剣に実行している行動の間もずっとお尻で擬似男根を咥えているという状況は、どんなに拘束慣れしてる私でも、脂汗の出る不快な快感を無意識下に押しのけることなんてできない。
 穴が極限まで開きっぱなしにされてる限界感が、私が今まで経験した色々な調教を呼び覚ます。

 極太が与え続ける極限の不快感と……快感。
 おま○んこが熱くなる。

 とうとうそれまで大人しくしていた膣内のディルドーまでもが動き出した。

 ハァ……
 ハァ……
 ハァ……

「ンンンーーー!!!」

 快感の小波に襲われた。
 広大な芝地の間の小路をザシッ、ザシッ、と走りながら、こみ上げる叫び声を飲み込んだ。

 ミチミチに拡げられたお尻の穴が極太の木の棒で擦られるたびに、戦車隊の革スーツの中にドバッと汗が滲み出る。

「ホフッ!」
「オフウ!!」

 こんな基礎訓練でイッてたら身がもたないよぅ!

 にゃああああ膣のディルドーが!ディルドーがぁ!!!

 目がチカチカして倒れそうなのに、ティアちゃんの鞭が怖くて、朦朧としながらも無理矢理走る。

 まさか……
 戦車隊の子たちって、こんな快感を覚えこまされて調教されてるの?
 身寄りのない子たちを引き取って……なんて話も耳にしたけど、ほとんど洗脳のようにこうやって快感を擦りこまれたら、身も心も捧げてしまうかも。


 約500mのトラックを、やっと2周。
 普通に走ればこの位で意識朦朧なんて有り得ないんだけど、呼吸制限させていると完全に酸素不足だ。
 それに、走る事と全然関係ないトコロで無駄に酸素消費してるゥ!

 フッ……
 フオッ……!
 うクゥゥゥゥ!!!

 まじイキそう……
 イッて倒れそう……
 小波じゃ済まない、超大波が来そう!

 ハァ、ハァ……
 何とか3周。

 やっと走りが安定してきた……
 走りの振動とお尻のディルドウの上下動が、絶妙に噛み合い始めた。

 ふあああぁぁぁ!!
 ずっとユルくイッてるよ、私……!

 そしたら、呼吸制限も手伝って、本当にランニングハイに近い状態に……!

 脳内麻薬が出てる……

 ハァ……
 ハァ……
 まだ続く……

 革のアイマスクに明けられた網目状の視界を、ただ茶色い地面だけが、流れるように過ぎて行く。
 視界の端にコーナーを感じ取って微妙に方向の舵取りする以外は、もうティアちゃんの方を伺う余裕も無い。

 もう倒れる。
 もう目が眩んで倒れる。
 そう思いながら快感の水平飛行の中を、麻薬に浸ったように陶然と走り続ける。

 ハァ……
 ハァ……
 まだ続く……

 ハァ……
 ハァ……
 まだ続く……

 延々コーナーを回ってる。

 ずっと緩くイッている……

 ハァ……
 ハァ……
 まだ続く……
 気持ちいい……

 結局大波はまだ来ないけど、無限に気持ちいいリズムの中を、自我を喪失したような状態で走り続ける。

 ハァ……
 ハァ……
 まだ続く……

 ハァ……
 ハァ……
 まだ続く……

「…………!!」

 あれ?

「…………!! …………!!」

 あれれ?
 何か聞こえる?
 誰か呼んだ?

 突然、視界の正面に黒い影が現れ、ドシーン!と衝突した。
 相手は身構えていたらしく、衝突の瞬間に私を抱き締めたので、私は弾き飛ばされることも転ぶこともなく、そのまま相手の腕の中に留まった。
 しかし直後に足の力が抜けてしまい、そのままズルズルと地面に膝を突いた。

「1512! 1512! ……さま! 姫さまっ!」

 あれ? ティアちゃんだ。

「もう! そんなフラフラのまま6周もされて! お停めしたのに、聞こえなかったのですか?」

 頭が押さえ込まれ、口枷が抜かれ、忙しくベルトを緩める感覚がしてから、頭を戒めていた全頭マスクがガバッと捲り取られた。

「ぷあっ! ありぇー? ティアひゃん……」
「姫様! もう! 適応早過ぎます! 何度もお呼びしましたのに、おわかりにならないほど熱中されていたのですか?」
「ねっひゅう……? 6ひゅうも……? ハッ!!」
 急に我に返った。
「い、いやああ、恥ずかしい! あたし、ティアちゃんの号令も聞こえないほど……」
 カアアと真っ赤になった。

「ふう…… まあ、一度陶酔状態になると何を言っても聞こえないので、戦車では鞭で指令するのですが。それにしても優秀な戦車馬の境地に一発で到達するとは、さすが姫様です」
「い、言わないでぇ……」
「いえ、これで良いのです。とにかく我々には時間がありません。なるべく早くロッドシール公の思惑通りになるように行動し、その中から打開策を探さなければ」
「うん、そうだよね。アハハ、奴隷姫の面目躍如かな」
「シッ! あまり馴れ合わないで下さい。どこで監視されているかわかりませんから」
「うん」

「それはそうと、そろそろ会議にお出になる時間です。昨日の私と同様、僅かな時間会議室に顔を出すだけですが。そこで『自治独立を認める』と仰って下さいますか?」
「……それは……わからない。 その場にならないと」
 ティアちゃんはブワッと涙を溜めた。
「姫様が死ぬとこ見たくありません!!」
「……泣かないで、ティアちゃん。大丈夫だよ。自治のことだけが結論じゃないよ。なんの根拠も無いけど、まだまだ探し出してない解決策があるかもしれないよ。なるべくチャンスを多く作るよう努力するよ」
「……姫様……」

 私は砂を払って立ち上がった。
「さ、議場に案内してよ。エヘヘ、このカッコのまま行くんでしょ?」
「……そうです……」
「昨日は毎度のハダカ同然のカッコだったから、まだマシかな? アハハハハ」

 ティアちゃんに停止させられた所は、トラックの始点に近かったので、大して歩くこともなく個室のドアから厩へ戻った。


 厩の暗さにまだ目が慣れない。
 目を凝らして見るとすでに個室の入り口には兵士が2名立っていた。
「こちらへ」
 案内されるまま、首から下全身黒革でギチギチの、ティアちゃんとおそろいのカッコで兵士についてゆく。
 最初にあの裸同然のいつもの奴隷のカッコで入った議場の入り口に、こんどは黒革拘束衣の姿で立つ。
 中からは長老達の声が、低く聞こえてくる。
「もうしばらくお待ち下さい」
 兵士が制止する。

 そのまま突っ立っている間に、全頭マスクのせいでベトベトに乱れた髪を手櫛で直し、無駄と知りつつ、顔を黒革手袋を嵌められた手で拭った。
 ちぇ、やっぱり洗わないとベタベタのままだ。

 やがて中から別の兵士が顔を出した。
 その兵士が扉の前の兵士に合図する。
「どうぞ、お入り下さい」
 兵士2人によってガバッと扉が左右に大きく開けられ、その戸口の中心にポツンと私たち2人が残された。
 議場の視線が一気に私たちに集まる。

「お…… おお、姫様! これはいったいどういうことじゃ!! ロッドシール公!」
 長老が立ち上がって叫ぶ。
 そりゃそうだ。
 昨晩寝室から行方不明になって、今日いきなりティアちゃんと同じギチギチ革拘束で議場に現れたんだから。
「はははは、論より証拠、姫様からは昨晩のうちに早々と御入隊のお申し出を頂きまして、このようにご体験賜っている次第。ですよね、姫様」

 ぐ。

 前から後ろからどぼどぼに精液飲ませてくれちゃっといて、よく言うよ。

「姫様……」
 ティアちゃんが小声で促す。
 私はまだ考えも上手くまとまらないまま、とりあえず口を開く。
「せ、戦車隊の秘密を伝授されるという大役、ティアルスたった一人だけに任せておくのも不憫かと思い、私も、し、志願致しました」
「如何ですかな?ご経験なされて」
「ま、まだこのように形だけですが、す、すばらしいと思います」
「では、これを手土産に是非自治を認めて頂きたいものですな」
 狡猾に私を誘導しようとするロッドシール公。

「う…… それは……」

 いきなり核心に触れられて、私は答えに窮する。

 …… ……

 議場中の視線が私の口元に集まる。

 いたたまれない静寂。

 …… ……

「姫様、ご返答を」

 ロッドシール公が急かす。

 長老はもう泣きそうな顔だ。

 たった今、私の唇からこぼれる一言が、アナムネやティアちゃんや私の運命を決定する。

 ……

「あの……」

 議場中が息を呑む。

「本日は始めからは出席しておりませんが、討議の内容、およそ想像がつきます。結局、私が認めるか認めないか、ということでしょう?」
「きょ、極論を言えばそうじゃが、姫だけのご負担にならぬよう、何とか他の方法をじゃな……」
「そんなの時間の無駄です。それより、ロッドシール公、お願いがあります」
「おお、姫様、どうぞ何なりとでも」
「会議なんかやめにして、1〜2週間、長老たちをゆっくりさせてあげて下さい。その間に私とティアルスで戦車隊の訓練を続けます。その後で答えを申し上げてもよろしいですか?」

 ロッドシール公は一瞬ギョッとして、それからニヤリとはっきりわかるように笑った。

「なるほど、なるほど、それはごもっとも」
「ロッドシール公の主張には、この私設戦車隊の威力の評価が根拠になっている部分が多くあります。ですから、内状を体験調査してみて、もし戦車隊が自治との引き換えに値しないとわかれば、当然独立など認められません。それを見極めてからお答えしたいのです」
「うむーー」
 長老が唸る。
「たしかにもっともじゃ。し、しかし姫様、なにもそのような訓練をご自身で体験調査されずとも……」

 私はムッとした。
 ちょ、長老こそ、自分は自分であたしに色々やらせたくせにぃ!

「それじゃあ言いますけどね! こン中で、頭固定されて3日生き埋めにされて平気なヒトっ!! ……ハイ、ハーーイ!」
 私は自分で手を挙げて、ブンブン振り回す。
「そんじゃ、ちっちゃーい檻に詰め込まれたまま、流動食だけで何日も暮らせるヒト! うんちもおしっこも垂れ流しだよ?! ……ハイ、ハーーイ!!」
 私はまた、自分で手を挙げる。
「そんなら、手足折り畳まれた犬みたいなカッコで、お尻にでっかい栓されて何日も暮らせるヒト! ブッスーーッて乳首とかにピアスもされちゃうんだよ? ……ハイハイ、ハぁぁぁーーイ!!!」
 私はまた手を挙げてブンブン振り回したあと、ピタッと手を止めてフヌーン!と鼻息を吐いた。

「ほーら、なんだかんだ言って、あたしが一番体力あんじゃん! 経験してんじゃん! バカにしないでよ! 戦車隊くらい、やってみせるわよ! 今だってねぇ! お尻に……ぐっ。」
 私は慌てて言葉を呑み込んだ。
 とりあえずこの場では、精液タンクにされてることは公表しない方がいい。
 というか絶対バレるの嫌だ。

「ハッハッハッハ! なんとも頼もしい姫様ではござらぬか! 異界の暮らしで腑抜けることもなく、その若さにして既に万難に立ち向かう王たる資質をお持ちだ。こんなお方が姫ならば、このまま姫様が昔どおり直接統治なされても良いのではなかろうか、のう、長老様。ハッハッハ!」
「い、今はそれは関係ござらんじゃろう」
「いやいや、そうなれば私も自治だ独立だとお騒がせすることこも無かった故」

「で!? 結局それでいいんですかっ?」
 わたしはイラついて質問した。
「おお、これは失礼致しました。もちろんですとも! 会議のためのわずかな日数では、姫様にとても全貌をお見せできないと危惧しておったところです。正に、渡りに船のお申し出ですな」
 そしてまたニヤリと笑った。

「じゃあ、行こう、ティアちゃん。続き、教えてよ」
 私は文字通り踵を返し、議場を出ようとした。

 これでいい。
 とにかく時間が稼げれば、それだけチャンスが増えるはず。
 どこまで耐えられるかわかんないけど、どんなに調教されたって『認めない』って言ってやる!
 それでこの首輪にちょん切られて、首が取れて死んでも、もういいや。
 私が頑張ったってこと、長老も皆も認めてくれるだろう。
 もう用済みのティアちゃんは、きっと解放されるだろう。
 でなければ戦争だ。

「あ、少々お待ち下さい姫様」
「これ以上、何か?」
 私はムッとして振り返った。
「いやあ、アハハ、お恥ずかしい。最初に申した通り、私めは姫様の大ファンでしてな、そこまで姫様がお申し出下さるのならば今、この場で姫様を完全装備にして愛でたいという想いが抑えられませぬ」

「はァ?」

 さすがの私も、ロッドシール公の口にした意味がすぐには理解出来なかったが、底知れぬ嫌な予感に不快な汗が垂れた。


「例の物を持て」
 ロッドシール公が兵士に指示すると、兵士が木箱を持って飛んできた。
「ティアルス殿、お手数ですが、姫様にそれらを御召し頂くのをお手伝い願えませんかな」
 ロッドシール公はこれ見よがしに、自分の首元に下がっている首輪のネジを巻く鍵を指先で弄(もてあそ)びながらティアちゃんに言った。
 この議場でその動作の意味するところを知るものはわずか2人。
 首輪で私たちの生殺与奪の権利を握っていることを再確認させ、お互いを人質として、有無を言わさず命令をきかせるつもりだ。

「はい……」
 そこまでしなくてもティアちゃんは既に命令に従うことを刷り込まれてしまっている。
 あの鍵を弄る意味は、もっぱら私向けなのだろう。

「えと、あの、今、ここで、ですか?」
「あはは、ダメですかな? 私の我侭な申し出なので、退けて頂いても結構なのですが」
「い、いえ、あそこまで言っておいて、今さら臆することなどありません」
「さすが姫様ですな」
 ロッドシール公は、またニヤリと笑った。
 私の背中を、更に嫌な汗がタラリと流れる。

 やられた……
 自ら見世物になることに同意してしまった……

「では姫様、馬用の装具をお着け致します」
 ティアちゃんが兵士から箱を受け取る。
「あ、アハハ、みんなの前だと、ちょっと恥ずかしいけど、だ、大丈夫だから、ちゃっちゃとやっちゃって」

 最初にティアちゃんが箱から取り出したのは、城に着いた時に見た戦車の馬役の子が着けられていた、アームザック。
 形はよくあるSM装具のアームザックにそっくりで、まあ、同一機能を追及すれば形が似るのは当然なのかもしれない。
 広い議場の出入り口寄りの、開けた石の床の空間でいきなり始まった拘束ショーを、長老はじめ出席者たち全員、そして兵士や侍従・侍女たちが固唾を飲んで見守る。

「姫様、お手を後ろに」
 そういえばアームザックってあまり経験ない。
 一応馬役の子達の姿を見ていたので、どういう形に腕を拘束されるかは知っていたから、背中で下向きに拝むような形で手を合わせ、肘を伸ばす。
 そこへ今着せられている衣装と同じ厚手の革でできたアームザックをすっぽりと被せられた。
 手を離すとそのまま自重で抜け落ちてしまうので、ティアちゃんは片手でザックを支えたまま、付属のベルトを私の右肩から左脇へと回した。
 そのベルトの端を掴み、こんどは左肩のベルトを胸の少し上で先ほどのベルトと交叉するように右脇へ通し、背中のどこだかで仮留めした。
 次に、既に黒革ツナギの手袋部分に包まれている手を、手のひらが合わさるようにして、アームザックの先端の細い部分に押し込んだ。
 そしてベルト式になっている締め込み機構を、手首、腕、肘と、少しずつ締め上げて行く。
 編み上げ式ではないので、一度締めた所が緩むことは無いが、二の腕方向にベルトで締め上がるに従って、最初に締めた手首の辺りに余裕が出来てしまう。
 それを手首に戻ってさらに増し締めし、肩ベルトもさらに締め直し、ティアちゃんは私の両腕を背中で細長い三角の塊にしてしまった。
 革自体が厚くて形が与えられているためか、鬱血するような強圧は感じないが、ピンと伸ばされたまま固定された腕は完全にその機能を剥奪され、私はただ足の力で戦車を曳くだけの馬にされてしまった。
 先端についていたフックを股下の金具に固定され、腕は完全に背中に密着した。

 ティアちゃんはベルトの締め込みのテンションに気を遣っているのか、緊張した作業にフウフウ言っている。
「ティアちゃんご苦労様」
 ちらりと見回すと、議場のみんなの奇異な物を見る目つきが私に突き刺さる。
 見ている目の前で、足だけ動く黒い芋虫のような姿にされてしまった自分が恥ずかしい。
 しかもこんな時にだけ顔が露出したままで。
 きっとわざとに違いない。
 私の困る様子を楽しんでるんだ。
 兵士たちは、噂に聞く奴隷姫のナマ拘束ショーに、食い入るように見つめてる。

「次はマスクです」
「(できれば早く被せて)」
 私は小声でティアちゃんに頼んだ。
「はい……」
 厩では私が座っていたのでティアちゃんは簡単に作業できたが、今度は私が立っているので、ティアちゃんは大変そうだ。
 アームザックの姿のまま、ティアちゃんの前に跪く。
 私にしてみれば作業をどんどん進ませようと思ってやったことなんだけど、私のうなだれた姿勢が劣情をそそるのか、みんなの視線が余計いやらしくなった気がするよぅ。
 作業しやすくなると、ティアちゃんは手際よく私に全頭マスクを被せ、後ろに髪の毛を全部押し込み、ベルトを締め込んだ。
 視界は再び網目状の点越しの狭いものとなり、鼻は狭い呼吸穴の明いた部分へと押し込まれた。
 しかし今度は口周りに少し余裕があって楽だ。 
 そう思ったのもつかの間、ティアちゃんの手には頭に締め込むハーネスが握られていた。
 午前中の訓練の時に嵌められていた口枷とは厳しさが全然違うヘッドハーネス。
 口に当たる部分は不思議なU字型をした2つの木片になっていた。

 ゾクリと全身の血が凍った。
 そのハーネスの目的と作用、そして全頭マスクの口周りが緩いわけが私にはわかってしまったから。

 ティアちゃんは私の口を開けさせ、U字の木片を上手く口の左右に滑り込ませた。
 柔らかい木が、ガッキと歯列に当たる。
 U字を上下の歯のアーチに合わせると、口の脇のネジを少し回した。
「ちょ! おごア!!」
 私は抗う言葉を発する間もなく、全頭マスクの奥で口を大きく開いたまま固定されてしまった。
 木はバルサより少し硬いかという材質で、歯の凹凸を印記し、歯列の位置をそのまま固定する作用があるようだ。
 ネジで私の口を開けっ放しにしておいてから、周囲に垂れたハーネスのベルトを私の顔周りに組み上げて行く。
 口の左右から逆Yの字に鼻の上で集まり、頭頂部を通り、後頭部へと降りる縦ベルト。
 口の左右を首の後ろで留める横ベルト。
 これには手綱を付ける金具が付いている。
 そして顎の下を締めるベルト。
 そして額を水平に締め込むベルト。
 それらを全部きっちり締め込まれ、厳つい戦車隊全頭マスクの上からさらに頭を拘束され、口を開きっぱなしにされた。
 全頭マスクの口周りの余裕は、開口ハーネスで口を開けっぱなしにさせられるためだったんだ。

「ひよっ! あろ! え?」

 最後にティアちゃんが手にした物を見て、私は電撃を浴びせられたように、膝立ちのまま後ずさった。
「やあああ!!! ほれ、やああああ!!」

 ティアちゃんが箱から出したのは、ガラスの筒だった。
 最初はその筒をそのまま口に突っ込まれるのかと一瞬思ったが、いくらなんでも太すぎる。
 良く見ると、ガラス筒の中には白い液体が満たされていて、その中に見え隠れしながら浮いているのは、ロッドシール公のペニスの形をしたディルドーだった。

「これは……」
 さすがのティアちゃんが躊躇した。
 それを見てロッドシール公はまた笑う。
「ティアルス殿、それの中身は姫のお口にちょうど留まる仕掛けです。中身は潤滑剤ですので、忘れずに、先に注いで下さい」
「ふあ!ひやあああ!!」
 私は議場のみんなの前だというのに、恥も外聞も無く叫び声を上げた。

 ティアちゃんがガラス筒の一方の蓋を少し回し、そのまま引き抜くと、中からズルリと柔らかい素材でできたディルドーが現れた。
 蓋から生えているので、ティアちゃんが蓋を完全に抜き去ると、そこから生えたまま、デロリと下に垂れた。
 ボタボタと白濁液が床に滴る。
 ああ……
 あの白濁は、どう見たってロッドシールの精液だぁ……
 ティアちゃんも臭いで気付いた様子。

 ティアちゃんは少し眉をひそめてから、左手に蓋ごとディルドーを持ったまま、右手のガラス筒を私の口に宛がった。

「ひ!!」

 真剣に怖かった。
 でも、受け容れるしかなかった。

 跪いたまま、おそるおそる顔を上に向けると、ティアちゃんが筒を傾ける。
 室温にまで冷えた、生ぬるい精液が、喉に流れ込んで来る。
 苦しょっぱいそれを、ヌグッと呑み下す。
 冷えたまま放置された塩味のスープより、さらに不味く感じた。

 ぬぐっ。
 ごくっ。
 うぐっ。

 悔しさと惨めさで、網目状のアイマスクの奥では、目から涙が溢れてる。
 この次にやってくるさらに恐ろしい責めが容易に想像がついたけど、膝立ちのままの不自由な黒い塊の私は、ロッドシール公の策略にまんまと嵌められた自分を呪いながら、それを受け容れるしかなかった。

「南方の木を傷つけた樹液を固め、それに海藻の一種を混ぜると、そのような弾力ある湿潤な素材が出来るのです。周囲には螺旋状に溝があって、完全に息が詰まることはありませんからご安心を」

 あの木製の喉枷に少しスパイラルなデザインを加えて、そのまま柔らかくしたような、禍々しい棒を私の口に近づけるティアちゃん。
 絡みついた精液がまたポタポタと垂れる。
 開口させられたままの、無抵抗な私の口にその軟体棒が侵入してくる。

「フ。 ふぐっ。」

 信じられない長さの、ゴムというよりコンニャクのような棒を、みんなの前で、飲み込まされる姫…… それが今の私なんだ。

「ろ! ア! かろっ! かほァ!」

 ああああああ、あの魔の咽頭部亀頭責めがまた!
 しかも今度は軟素材なので、充満感がものすごい。

「ズヒユーーー!!」

 激しい風切り音がして精液の飛沫が口の中に逆流し、喉から肺までの空気の道は確保されたが、今度はどっちを向いても、中咽頭の奥に引っ掛かった亀頭を永遠に飲み込まされる感覚が続く。
 とたんに、頭の中はあの嚥下反射パニックに支配され、戦略や作戦のようなものを落ち着いて考える脳の活動を、一切奪われた。

 ――カチッ――

 私の口元で蓋が口枷に固定され、もうこのパニックから私を解放する術が封じられた音が響いた。

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