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  解放  






§§ 解放 §§

 もう何日この姿のまま固定されてるのだろう。
 そして、この先いつまでこのままなのだろう。
 身動きすらできない狭い牢獄の住人。
 口も首も固定されたままだ。

 特に意識しなくても、おま○この奥で、挿入されっぱなしの筒がニュルンと動く。
 後ろ手に力を入れたり、口を開け閉めしようとしたり、ブーツ履かされっぱなしの足を動かそうとしたりして、日に何度も何度も囚われの身の拘束感を確認する。
 時間はいくらでもあるみたいだから。

『君も大変だな。こんな姿にされて。よほど慣れてるか、好きかだよな。俺だったら1日で発狂してるぜ』

 好きなのよ……

 好きにさせられちゃったのよ!

 悪い?

 何日もブッ通しで拘束されてるのに、それが嬉しくて嬉しくてたまんないのよ!

 檻に固定され続けて、エッチな気分が止まんない。
 侍従のおばさんに蔑んだ目で見られても、いまだにポタポタ粘液を垂らしているのは事実。

 でもそろそろ限界。
 拘束がではなく、エッチな気分が。

 そろそろイキたいよ。

 そろそろご褒美欲しいよ。

 そろそろお仕事させてよぉ!
 山でも岩でも真っ二つにしてみせるからぁ!

 エフッ……
 エフ、エフ、エフッ……

 グスッ……
 グズッ……


 ―― カツン…… ――

 ―― コツン…… ――

 ―― カツン…… ――

 ―― コツン…… ――

 ―― カツン…… ――

 ―― コツン…… ――

 ―― カツン…… ――

 ―― コツン…… ――

 またあのおばさんかしら。
 お尻のディルドーでも外しに来てくれたのかな?

 ―― カツン…… ――

 ―― コツン…… ――

 ―― カツン…… ――

 ―― コツン…… ――

 ちっとも足音が近付いて来ない。

「ひ…… ひめ…… さま……」

 ニルさん!?

 ―― カツン…… ――

 ―― コツン…… ――

 音の正体はニルさんが突いていた、木の杖。

「よう」
 あの嫌な男も一緒だった。
「ひめ…… さま…… おまたせ…… して…… すみません……」
 ニルさんは治療のためか、もうビキニではなく白い病室着のようなものを着ている。
「すみません、ちょっと…… あっち…… むいてて……」
「ん? こっち見てればいいのか? 妙なことすんなよ」
「はい……」
 ニルさんはだぶだぶのワンピースのような病室着の裾を捲ると、お尻の方に手を入れて、ふんばった。
「ン…… !! アアッ!!」
 病室着の下から手を出すと、手には卵型のカプセルを持っていた。
「フフ…… これだけは…… 命に代えても…… ……といいながら…… 姫様に 救って……」
 一瞬、息もたえだえになり、何かをぐっとこらえてから、カプセルを開け、鍵束を一緒に来た男に渡した。
「すみません…… 檻の棒はすべてこの鍵で抜けます…… 檻の戸はこれ…… これがお尻の蓋…… 貞操帯や首輪の鍵は、まだ向こうに……」
「わかった、わかった、もう喋るなよ。ちょっと待ってろ」
 あの嫌な男はニルさんをその場へ座らせ、鍵を持って私の檻に近付く。
「くせっ! なんだシッコ片付けてないじゃないか」
 カーーッと真っ赤になる私。
 つくづくイヤなヤツ!
 ガラガラとおまるのような容器を移動させ、作業に戻る。

 どう解錠しているのかは見えないけど、カチリと言っては棒が抜かれ、カチリと言っては棒が抜かれ、体の位置を戒めて貫いている棒が次々と外された。
「先に……口と首、それから手足を……」
「あー、わかった」
 ニルさんの指示で、口枷を横から留めている棒と、首輪を横から押さえ底いる棒が抜かれ、久しぶりに首が動かせるようになった。
 とたんに口枷の重さで首が前のめりになる。

 後ろ手で固定されていた手枷が檻から外され、手も自由になった。
 足枷を檻に固定していた金具も外された。
 最後に檻が開けられたが、手がプルプルしちゃって自力では出られなかった。
「なーにやってんだ。ほれ」
 肩を掴まれ、引っ張り出されると、M字に曲げた足が固まっちゃって伸ばせない。
 拘束されてないのに、まるでダンゴムシのようにコロンと絨毯の上に転がった。
 股からはまだ蜜が糸を引いている。

「おいおい、よっぽどその格好が好きなんだな」
「ウーーッ!!」
 まだ口枷嵌められたままの口で叫び、またまたカーーッと真っ赤になる私。
「しょうがねぇなぁ」
 M字に固まった情けない姿のまま、ゴロリと横に転がされ、うなじをまさぐられる。
「このへんだと思うんだが…… あった」
 うなじでカチリと音がして、口枷が緩んだ。
 男が無理に引き抜こうとするのを手で止め、自分の手で口から筒を引き抜いた。
「おべぁ〜〜」
 ゴムのブロックを押し出す。
「うーーーーー くてぃがしまららい」
「お前、どこの人間だ」
「アナムネノコトバ、マダシャベレマセン。イッテルコトハワカリマス」
 ガクガクする口で、うろ覚えの単語を繋いで、なんとかそこまで言った。
「姫様は…… 本物です…… 何度も言っているように……」

 やっと足がギシギシながらも伸ばすことができるようになった。

「ニルさん! ニルさん! よかった! よかったぁ!! わぁああーーん!!」
 膝で這ってニルさんに抱きついた。
「姫様…… お世話をかけました…… 檻からお出しするのが遅くなって…… すみません……」
「いいよ! もういいよ! 無理に喋んないで! ニルさんが助かって良かった!」
「おまえら、それ何語?」
「傷は、ほぼ完全に塞がっているのですが…… 神経が馴染まないのでしょうか、あちこち凄い痛みと…… あと、血が足りない感じで……」
「もう戻りなよ」
「そうします。 すみません、鍵は全部姫様に渡して下さいますか?」
「おう、それは問題なさそうだからな。ほい」
「アリガトウ」
「そっち、一人で戻れるか?」
「はい……」
「じゃ、『姫様』はこっちへ来てもらおうか、2、3質問に答えたら、食い物とベッドをやるぞ」
「ハイ。 ニルさん、一人で大丈夫?」
「休めばすぐ治る状態ですので、しばらくゆっくりします」
「うん、本当にありがとう」

 ―― カツン…… ――

 ―― コツン…… ――

 ―― カツン…… ――

 ―― コツン…… ――

 ニルさんは来たときと同じように杖をつきながら戻っていった。

「『姫様』こちらへどうぞ」
 ニルさんを見送ったあとすぐ、男に連れられて階段を降りて、小さな会議室が並んだような場所へ行った。

 小さな部屋で、丸テーブルを挟んで向かい合わせに座る。
 男がノートを取り出し、ペンのようなものを握る。

「言ってることはわかるな?」
「ハイ」
「取り調べってほどじゃないんだが、こっちも状況がわけわからないもんでね」
「ハア」
「コメドゥ氏とはどんな関係?」
 おじさんって単語が思い出せない。
「チチノオトウト」
「要はおじさんね。 ええっ? ……うーむ、えーと、その格好は好きでしてるのかい? 商売?」
「チガウ。ムリヤリサセラレタ」
「その、おっぱいの先のも?」
 いまさらだけど、他人に思い切りおっぱい丸出しで晒していることに気づき、とたんに恥ずかしくなった。
「キャッ!!」
 胸を両腕で隠し、体を丸める。
「おいおい、いまさら……」
「チガウ。スキチガウ」
「そうそう、王様やお后様はどこに居るって?」
「ウチニイル。チキュウ。イセカイ?」
「あっはっは! うちか! そうきたか。それならすぐにでもここへ来てもらいたいもんだ」
「デキマスヨ」
「え?」
 男の目付きが変わる。
 私の口元をじっと見つめる。
「似てる…… お后様に似てる…… 私が最後に王女にお会いしたのは森で遊んでいるのを王様の仰せでお迎えに行った時だからな」
 記憶の一部が勝手に戻ってる。
「エ? アノトキノ、ヒョウキンナオニイサン?」
「ちょっと待て! 知ってるのか?」
「ナンカオボエテル。ワタシガ『カエラナイ』テイウト、ワタシノ、クツ、モッテニゲタデショ」

 今までニヤついていたイヤな男が、突然硬直した。

 椅子を後ろに蹴飛ばし直立不動になると、跪いて最敬礼した。
「かっ! 数々のご無礼! お赦しくださいッ! 職務ゆえっ……!」
「ワカッテモラエテウレシイ」
「あの、御召し物などを……」
「スミマセン。カンタンナフクト、アツデノパンツヲ、ゼヒ。ミダラナキモチニナルソウチヲイレラレテシマッテ、ハズセナイノデス」
「……う……」
 男の人、顔が真っ赤だ。
 商売女かおじさまの策略のパーツから、突然エッチな姿の王女に認識が切り替わったのだろう。
 フンだ。

 男が出て行って、ニルさんが着ていたような病室着と女物のデカパンツを持って来た。
「アリガトウ」
 もう椅子の座面がベトベトしている。
 手で簡単に拭ってからデカパンツを穿き、病室着を着た。

「ドウシマショウ? チチヲヨビマスカ」
「お聞き及びかもしれませんが、王が失踪されてからこの国はしばらく混乱しました。しかし、そのおかげで国民に自立意識が芽生え、この十数年で王家の超常の力に頼らない暮らしを確立してきました。正直申し上げてもう王様の実権は実質上失効していますが、それでも国民は王様をお慕いしております。ですので、是非お戻りいただき、政権の正式な委譲手続きと、国の象徴としての地位に就いていただければこの上ない幸せです」
「ヨクワカリマシタ。ニルサンガカイフクスレバ、スグニデモツレテキマス」
「よろしくお願いします。遅くまで済みません、お食事とベッドを用意させます。粗末なものしか準備しなかったので、用意し直します。少しお待ち下さい」
「ソマツナモノデジュウブンデス」
「そんな! 畏れ多すぎます!」
「オリノクラシカラスレバ、テンゴクデス。『ヨホドナレテルカ、スキカダヨナ』ッテ、ソノトオリデス」
「わーーっ! 申し訳ありません! 死んでお詫びを!」
「ヤメテ!」
「はい…… すみませんでした。お食事もって来ます」

 男の人は一旦出て行って、お盆を持って戻って来た。
 パンのようなものと、ドロドロしたスープと、紅茶に似たお茶と、ミカンに似た果物が載っていた。
「オイシソウ。イタダキマス」
 パンは思ったより柔らかく、何日も固定されたままだった顎にも優しかった。
 スープは魚介を煮込んだような味。
 キャベツが煮崩れたような野菜が入っていた。
 果物は、見た目も味もミカンそっくりだが、房が4つしかない。
 この果物は食べた記憶がある。

 全部一気に食べてしまった。
「ゴチソウサマデシタ」
「寝所は閉鎖されていて、寝具もありませんので、さきほどの彼女と同じ病室で寝ていただく予定でした」
「ニルサントイッショ? ウレシイ!」

 その小さな部屋を出て、エレベーターに乗り、病室のあるフロアについた。
 もともとは救護所のようなセクションだったらしく、膝を擦りむいてロイと来たことがある。
 中に入るとベッドが4台あり、3台が空で、1台でニルさんが眠っていた。
 良く寝入っているので声を掛けず、隣のベッドに入ろうとすると、ニルさんの枕元にあのチャイムが置いてあるのを見て、ぶわっと涙が溢れた。

 貞操帯、首輪、手枷、足枷、ブーツは全部そのまま。
 その上からパンツと病室着を着ている私。
 ブーツがシーツを汚すけど、しょうがないよね。
 ティアラは外し、髪の毛はアップを解いて、横で雑な三つ編みにした。

 涙を拭い、ベッドに入って毛布を掛けた。
 寝床が暖まるのを待つ間もなく、目を閉じた瞬間に眠りに落ちた。


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