脳内麻薬製造機

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脳内麻薬製造機

 親友の素子がある日一家で消息を絶ち、しばらくして素子だけが全身黒革のボンデージに身を包み、自動販売機のような奇妙な屋台を引いて学校の近くに現れた。
 顔も目と口以外ぜんぶ革のマスクに包まれ、声をかけられなければ素子だとわからなかった。

「素子!いったいどうしたの?」
「みくちゃん。お願い、あたしの合法麻薬買って」
 素子はボンデージに鍵を掛けられ屋台に繋がれ、至る所からチューブや電線が屋台へと繋がっていた。特に頭から出ているチューブにゾッとさせられた。
「麻薬ってどおゆうこと?」
 最近、脳内麻薬物質が合法麻薬として認可されたと聞いたことがある。
「お願い、お金がいるの。あたしの麻薬、評判いいのよ。5000円よ」
 わたしはおそろしさと友達たすけたさで、素子が引いている自動販売機のようなものへ、なけなしの千円札を5枚入れた。

 販売機が作動を開始し、素子の首に繋がったチューブに液体が流れると、顔を包むマスクから見えている素子の目が潤み、瞳から光が消えた。
 目の前で全身を硬直させ胸のあたりをぴくぴく震わせる。

「ハア ハア ハア 。。」
 しばらくハアハアして、こんどは腰をブルッと震わせ
「うーーーーっ」と言ってのけぞった。

 全てが恐ろしかったが、素子は、ただひどい目にあっているようには見えず、どこか嬉しそうだった。
 素子の全身から激しい振動音が聞こえ、目の前でのぼりつめてゆくのをわたしは茫然とみていた。
 全身が激しくケイレンして絶頂を迎えるように見えたころ、素子の様子が変になった。
 激しく苦しんでいる。
 やがて頭のチューブを血の混じった漿液が駆け抜けると、自動販売機の出口からビニール袋に入ったカプセルが出た。
「ハーッ、ハーッ。。」

 わたしがそれを掴むと、素子は礼も言わずにぐったりした様子で屋台を引いてどこかへ消えた。



 家でそのカプセルを飲んだわたしは、その場でいきなり絶頂に達し、おしっこをもらして気を失った。
 素子のアクメの瞬間を、そのまま脳に注入され、唐突に絶頂を経験させられたのだ。
 わたしは激しい快感の余韻に震えた。

 わたしはこの快感がわすれられず、カプセルの袋にあった住所へ行ってみた。
 試しに着てみろと言われ、素子と同じボンデージを着せられて、すぐに薬を打たれ気を失った。

 気づいた時にはもうわたしも全身ボンデージのまま、鍵をかけられ、自動販売機を引かされていた。
 素子と同じように、頭にチューブを埋め込まれてしまっているのに気付いたときは、目の前が真っ暗になった。

 仕方なく命ぜられるままに、街中をフラフラさまよい、脳内麻薬を売る。
 そしてわかったこと。恐ろしいこと。
 わたしの脳内麻薬はわたしには使われず、『商品』になってしまうということ。
 つまり、わたしはその麻薬による快感を得られないこと。
 機械による強制的な絶頂を短時間で得るために、最初にちょっとだけ頚動脈に注射してもらえるだけ。
 期待した快感を、吸い出され、奪い取られる、空転した絶頂の恐ろしい虚無感。

 わたしの快感が5000円で売られてしまう。

「おっ、ちょうど探していたんだ。今いいかい? 10個ね。5万入れるよ」

 たすけて!



  完



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