幼馴染と日常のだらだら

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「げふっ。」
 げっぷでた。
「陽子ぉ、おまえなぁ、もうちょっと女の子らしくというか、まぁ、仕方なく出るにしてもだ、あっち向いて手で押さえてケプとか可愛くできないの?」
「アッハッハ! 今更ぁ!」
「ちぇっ。うあ、他人が飲んだコーラの臭い嗅がされるのって嫌だなぁ」
「んん、今度出る時はせんべい臭も混じるよ。バリボリ」
「バカ、ふざけんなよ。女のげっぷ嗅ぐ趣味ないよ」

 コイツきっと『色気のカケラもねー』とか思ってるんだろうなぁ。
 だってしょうがないじゃん。
 家が隣同士のうえに、幼稚園から小学校・中学校、そして中高一貫だから高校卒業するまで一緒なんだもん。
 学校で一緒にいる時間を考えれば、寝る時以外下手すると家族よりもコイツといる時間の方が長いかもしれない。

 コイツは良一。

 イケメンからは程遠く、スポーツやれば中の中、成績はまぁ上位の後半の集団内であたしと順位を争う程度、ギャグがぽんぽん飛び出すお調子者でもなく、どちらかというとボンヤリとパソコンいじってるようなオタク系。
 人畜無害でお人好し、……よくあるパターンだよね。
 もう空気みたいな存在だから、学校から帰るとすぐこうしてオヤツたかりと合理的宿題完遂を兼ねてこの良一の部屋に入り浸ってる訳だ。


「なんだボッキーもう無いの?」
「ブクブクに太っても知らないよ?」
「あたし炭水化物じゃ太んないんだ」
「そりゃ結構なこって。言っとくけど、俺の小遣いにも限界ってもんがあるからね」
「フフフ、オヤツの切れ目が縁の切れ目。帰る」
「あー、とっとと帰れ帰れ。 んじゃな」
「ん。一応ごちそうさん」


 いくらお隣でもマンガみたいに窓から出入りなんて無理。
 良一の部屋を出て、下に降りて、良一のお母さんに挨拶して、隣の自宅に戻った。

 イケメンからは程遠いって言ったけど、それなりのカッコさせればそれなりに似合う。
 背は175だからまあ正にそれなり、上半身の裸はフツーに目にしてるけど、運動してないわりにはちゃんと締まってる。
 あー、顔は見慣れ過ぎちゃったけど、女子からもコクられたことあるって言ってたから、悪い方じゃぁ無いんだろうね。

 私はと言えば、『喋らなければイイ女』って有り難く無い評判を賜っておりまして、とりあえず『イイ女』の部分は正当に評価されてんのかもと勝手に解釈している。
 うちの学校は水泳も男女同時授業だから、水着になった時にギンギンに男子の視線浴びてるってことは、あながち自意識過剰ってわけでもなさそうだ。

 髪はメンドの無いショートボブで、ちょちょいとブロウすればOKだから雑な私にぴったり。
 身長は良一よりちょっと低いくらいだから、女子の中ではやや高い方かも。
 カラダの方はあんまり気にもしないし自信も無いんだけど、淳子の前で『胸のサイズなんてどうでもいいよね』的な発言をしたら首を絞められた。
 まぁ、サイズだけならこれまた中の上くらいなんだろうけど、寝っ転がってもぼよよんと左右に少し分かれるだけで、胸全体が堆(うずたか)く突き出る様子は、キワモノ的意味では自慢かな。
 これも面白がって話したら、みんな怒るの、なぜだろう?

 良一はもともと空気みたいな存在だから、私は良一とどうにかなるなんて思ったこともなく、アイツが『振られた』って私に報告すれば心の底からゲラゲラ笑い、私は私で憧れの先輩にコクっては勝手に玉砕したりしていた。
 私や良一にとっては、それはまるで双子の兄弟の恋愛報告を聞くようなもので、互いに相手を異性として意識することなど考えられなかった。
 お互い同時期に玉砕した時は、二人で翌朝までお喋りして、部屋着のまま二人で良一のベッドの上で寝込んでても別段何も無かった。
 双方の親も、小さい時からそんなことは良くあることだったので、思春期だってのに危険視もせずに放置していた。
 うまくいけばくっつくかなと密かに思っていたのかもしれない。
 だって、結婚て家族同士の結合ってことでしょ。
 だったら今更ぜんぜん知らない家族同士でゼロから知り合うより、何年も家族ぐるみで付き合っててそれなりに良好な関係にあるもの同士の方が、全く面倒が無いだろうから。
 お互い一人っ子同士だからそれで済んじゃえば親同士も楽だと考えるのは大人のアタマからすれば至極当然のことかもしれない。


「ねぇねぇ、陽子ぉ、聞いてよ」
「淳ちゃん何よ薮から棒に」
「彼がさぁ、エロいビデオばっか死ぬほどダウンロードしてんだよう」
「えー?そのくらいアリじゃないの?」
「そんな金があるならさぁ、デートん時もっといいモン驕るとかさぁ、すんばらしいアクセ買ってくれるとかさぁ、別な使いみちがあるじゃん」
「そりゃそうかもだけど、そういうのも男子には必要なんじゃない?」
「陽子はカレシいないから楽観すんだよう。AVに浮気されてるようにも感じるんだよ?」

 かっちーん!

「ふん、どーせカレシいないからわかんないわよ」
「あ、ごめごめん! でもさ、京山くんとかだって妖しい画像の5つや6つ隠してるはずよ?」
「ちょっと!良一とはそんなんじゃないってば」
「わかってるわよ、だけど一番身近な男子でしょ? こんど覗いてみなよ」
「えー? アイツいかにもオタクだから絶対有りそうだけど、見付けちゃったら見付けちゃったでなんかキモいな」
「そん時にあたしの気持ちがわかるよ」
「げー」

 淳子から聞いたその話はしばらく忘れてるうちに、私の中でその『フォルダ漁り』はいつしか良一に対するイタズラのネタに変わっていた。
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