テトラポッド

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  埋没  


 埋没


「はー、また今年も女3人でどよーんと過ごすのかなーなんて思ってましたけど、妙なきっかけでけんじさん達と一緒に遊べて良かったですー。しかも何から何までご馳走になっちゃってぇー」
「あはは、いいよいいよ、こっちこそ嬉しいよ。女の子3人はまだそれでも華があるだろ?野郎3人でただ遊ぶのって悲惨だぜー」
「あはは、そうですね。3人はクラスメイトなんですか?」
「うちの私立医大なんて学年1クラスしかないから、それで言ったら全員クラスメイトさ。あいつらとはネットサークルの仲間なんだ」
「ひょっとしてそのケータイに下がってるストラップのですか?『光速クラブ』?」
「良く気づいたね。良く覗く匿名掲示板から、趣味の特に似た仲間を私設の掲示板に誘導してIP抜いたら、そのうち2人が同じ学校の同級生だったのさ。まったく大学からアクセスするなよなーって僕もか、アハハ」
 楽しく会話しているうちに随分時間が過ぎた。

 気付くと、泳いでいたはずのりょうこ達の姿が見えない。
「あれ?りょうこ達どうしたんだろ。ひろみも遅いなぁ」
「まなみちゃん、こういう展開になってくると、余計な詮索は野暮でない?」
「えっ?でも…… 一応……」
 あたしは急に表情を硬くした。
「アッハッハ、ごめんごめん、そんなに急展開なナンパをイメージしなくていいよ。心配しなくても大丈夫。僕らお互いの携帯をGPS登録してるからさ、よしおもまなぶも居場所すぐわかるよ。ちょっとまって…… ほら、まなぶは……ホテルだな。よしおは……検索……っと、ほら、国道沿いの資材置き場だ。やっべ、あいつらにボートの備品しまうのやらせちゃったかな?」
「ああ、安心しました。あ、りょうこだけ携帯と財布が置きっぱだ」
「よしおは携帯から小銭入れまで腕の防水ポーチに入れて泳いでっからなー、だから場所わかったんだけど」
「これ、りょうこに届けて、あたしたちもここ引き払ってどこかに行きません?」
「いいね、じゃ、よしおに電話だ。えーと…… おう、今どこ?倉庫? うん、うん…… いや、ここ払うんで、彼女の荷物がさ…… うん、あ、来る?うん、わかった」

 2,3分したらよしおさんが飛んできた。
「彼女待たしてるから、これで」
 と言ってりょうこの荷物だけ持って飛んで行ってしまった。
 あたしはなんだか嬉しくなった。
 んーんー、りょうこもうまくやってるみたい。
 なら、あたしだって好きにしていいよね。

「さて、向こうもうまくいってるみたいだし、僕らも楽しもうよ。まなみちゃん、かき氷なんてどう?」
 たいして運動してないのに喉乾くー。
「あー、いいですねー」
「あっちは読書系に運動系、僕らは食い気系かな?」
「あっはっは」
 シートを仕舞い、パラソルを畳んで返しがてら浜茶屋へ行った。

 宇治金時をスプーンで突き崩しながらけんじさんの携帯ストラップをぼんやり見る。
 『光速クラブ』
「ねぇ、この光速クラブって、何するサークルなんですか?」
「え? あはは、いやぁ、くだらない語呂合わせさ。女の子をね、身動きできないように拘束して、気持ち良くなってもらう研究をしてるんだ」

「は?」

 午後の浜の熱気を大量に含んだ、湿気の多い空気が篭る浜茶屋の、それでもありふれた海での1シーンの中で、異様な言葉が耳に響く。
 波のきらめきが既視感を起こさせ、そのまま離心症のようになって現実との境が曖昧になる。

「ちょっと失礼」

 ――カチッ――

 その茫然とした気分を現実に引き戻したのは、首筋の冷たい感触だった。
 けんじさんが一瞬席を立ち、茫然としている私の背後から首に何かを嵌めたのだ。

「なっ! 何ですか、これ!」
「シーッ、大きな声出すと周りに知られるよ? 似合ってるよ。それ、チタン製で6万もするんだ」
「首輪?」
「機能としてはね。ドイツのアキシマってメーカーのもので、日常的に装着できる首輪や手枷を作ってるんだ。継ぎ目のほとんど見えないただのリングに見えるでしょ?この特殊なピン型のキーが無いと絶対外れないんだ。2カ所にある横向きのU字のデザインは折りたたみ式のDリングなんだ。凝ってるよねー」
「外して下さい!」
「うん、しばらく僕らにつきあってくれたら外してもいいよ」
「そんな…… いい人たちだと思ったのに…… こんなことしなくても、いろいろ……大人のことも……教えてもらってもいいかな、って思ってたのに……」
「うーん、それは違うな。『こんなこと』って言うけど、この首輪はまなみちゃんが楽しむための小道具だよ?」
「首輪嵌められて楽しい人間がいますかっ」
「んー、キミ。」
 あたしを指さしてニヤリと笑う。
「そ、そんな……」
「昨日の夜中、見たろ?僕らのこと」
 ザーッと全身の血の気が引き、唇が紫色になった。
 黒く固められて砂に埋められてゆく女の人の姿が脳裏にフラッシュバックする。
「あ…… あ…… やっぱり……」
「普通はさ、恐ろしくなって二度と近付かないよね? なんでわざわざ朝戻ってきて、バケツどけて見たの? 興味、あったんじゃない?」
「それは……」
「ま、いいや。ちなみに警察に駆け込んでも無駄だよ。ちゃんと合意の上でこの状況まで来たんだからね?」
「ひどい……」
「さ、お友達の様子を見に行こうか」
 あたしは更に血の気が引いて、気を失う寸前だった。
 ひろみ! りょうこ! ああ、あたしが悪いんだ。
 夜中にあんなもの探しに行かなければ。
 わざわざそれを今朝確認しなければ。
 こいつらが寄って来ることも無かったのに。

 見た目には金属製の細いチョーカーにしか見えない首輪を嵌められ、すでに奴隷にされたような気分で浜茶屋を出た。

 天国からいきなり地獄に堕とされた。
 あたしの首に嵌められた首輪から、見えない鎖が伸びて、けんじさんに引かれて行く気分。
 この首輪以外、数分前と全く変わらない水着姿なのに、もうあたしの全身からは自由が奪われてしまっているように感じる。
 ビーサンでザクザクと砂を踏みしめて、けんじさんについて行く。
 やっとどこへ向かっているのか見当が付いてくると、あたしはもっと気分が悪くなった。
 昨晩の、テトラポッドの近くの、あのバケツの所へ向かってる……

 バケツのそばにはまなぶさんが立っていた。
「よう!まなぶ」
「あ、その首輪。じゃぁ、まなみちゃんにはしゃべったんだね」
「まあサワリだけな。ゴチャゴチャ説明するより、見てもらった方が早いからな。で、そっちはどうよ」
「うん、とりあえずカタチだけはね。中身はまだまだ時間かかりそう」
「そうか」
 バケツの周囲からは、砂にまみれたロングの髪の毛が放射状に伸びていた。

「ひろみ!!!」

 どうしてひろみの名前を叫んだのかわからない。
 つい数時間前、浜で分かれた時のひろみの姿と、このバケツからはみでてている髪の毛が結びつくなんてこと、あるはずないのに。
 でも、長さやボリューム、艶のある真っ黒い色調などが、どうしてもひろみを連想させてしまう。

 そして、ふと気づいた。
 では、ひろみでなければ、いったい誰なの? それともカツラをオブジェに利用してるだけ?
 それともやっぱり……

 首輪を嵌められてしまった自分自身のことを含め、渦巻く悪い予感に、心臓が千切れそうに高鳴る。

「見る?」
 まなぶさんがにこやかに言う。
「ああ、見せてくれよ。まなみちゃん、コイツはラバーフェチでね。フェチってわかる?」
「なんとなく…… 大好きなんでしょ……」
「うわソフトでイイ表現だね。そうそう、大好きでね。女の子にラバー着せるのが。光速クラブって言ってもやっぱり枝葉末節の 嗜好って100%同一には成り得ないんだよ。コイツはラバー、よしおはなんつーか、お尻マニア? 俺はね、過程フェチなの」
 けんじさんの説明が3割も理解できないでいるうちに、まなぶさんがバケツをどけた。

 そこにあったのは、ゴム製のガスマスクを被った人の頭。
 頭を全部ゴムで覆われ、襟から髪の毛が放射状にはみ出ている。
 口からは太いゴムホースが伸びて、小さなフィルターの筒につながっている。
 目に嵌められたガラス窓からは、表情を読み取ることは出来ない。

 醒めない悪夢が現実へそのまま持ち越される瞬間を、この目でみることになるなってしまった。
 無力に砂に埋められた人の頭は、時折小刻みに振動しながら、低い唸り声を上げ、深い呼吸を繰り返している。
 まなぶさんがジッパーを開けると、太いホースとガラスの目穴のついた前部分が外れ、さらに目と鼻だけが開いたゴムマスクの
 顔が現われた。
 よく見ると、口は別パーツで覆われ、その中心からは金属の短い筒が出ていた。

「ひろみ!!」
「ンーーー!!」

 間違いなくひろみだった。

 まなぶさんが口のバルブのようなものをいじると、口のパーツが外れ、溢れる唾液とともにしぼんだゴム風船がズルリと出てきた。
「ひろみ!」
「ぷああ、まなみちゃぁぁん…… んアアア!!!」
「大丈夫? どうしたの?」
「アアアア! 来る! また来ちゃう! 来る! ア! イク!! ぁぁぁん……」
 まるく開いた目の穴から、切なそうにぐったりしたひろみの表情が見える。
 まなぶさんはその口にさっきのゴム風船を再び押し込み、左右のスナップで顔のゴムマスクに留めると、口の短い金属の筒に
ゴム球を押し当てて、スコスコと何度も押した。
「ンーーー!!」
 ひろみの声が空気とゴムの塊の奥に押し込められたのを確認すると、ガスマスクを元通りに被せ、バケツを被せた。

 あたしは声も出なかった。
 『大丈夫? どうしたの?』以外、いっぱい声を掛けたかったし、けんじさんたちに聞いたり怒鳴ったりしたかったけど、その光景のすごさに、ただ圧倒されてしまった。

「どう?まなみちゃん、昨夜の疑問が解けて、スッキリした?」
「こんな! ひどい! ひろみを出して!! いますぐ!!」
「ねぇ、まなみちゃん、ひろみちゃんは『助けて!』って言ってた?」
「えっ?」
「まぁ、どのみちキミももうすぐこうなる運命なんだから、体験してみればわかることだけど」

 けんじさんの言ったひろみについての言葉の意味もまた理解できないまま、同じようにあたしも昨晩見た黒い服を着せられ、マスクを被せられ、なすすべもなく砂に埋められてしまうのだということだけが、恐ろしい現実として理解できた。

「次はこっちだよ」
 けんじさんに言われてヨロヨロとひろみの埋められたバケツのそばを離れた。
 まなぶさんはバケツのそばに腰を下し、愛しそうに嬉しそうにそのバケツを見つめている。
 さっき……
 ひろみはイッてた……
 真っ先に『助けて』って言わずに……
 でも、何かひどいことされて、助けてと言う心の余裕すらも無かったのかもしれない。

 けんじさんに連れられて行ったのはバケツの場所から20mと離れていない所で、そこにベニア板剥き出しの仮設の小屋があり、
『資材置場 関係者以外立入禁止』 と書かれていた。
 側面の入り口には仮設小屋に似つかわしくない精密そうな電子ロックの付いた扉があり、けんじさんが数字キーをいくつか押すとドアが開いた。
 ドアは意外に厚く、ベニア・スポンジ・ベニアとサンドイッチ状になっていた。
 ドアを開けたとたん、中から悲鳴のようなしゃがれた声が聞こえて来た。

『もう……ゆるしてぇぇ……』

「早く中に入って、ドア閉めて」
 けんじさんにせかされて、急いでドアを閉めた。

 中は、異様な…… その…… ウンチの臭いが立ち込めていて、益々気分が悪くなった。
 ガスマスクを被らされ砂に首まで埋められたひろみの様子より悪い状態なんて想像もできないのに、もっと悪いことが起きている予感
がひしひしと感じられる。

 冷房もない炎天下のこの仮設倉庫は、壁に内蔵されたスポンジの効果も手伝ってか、死ぬほど暑かった。
 小屋の入り口を入ってすぐの場所は、本当にボート用のオールやポンプ、電動の船外機などが置いてあり、さらに奥へ続く入り口があった。
 天井には不気味なほど白っぽい色の発光ダイオードのランタンが下がっていて、この蒸し暑い小屋の中をかなり明瞭に隅々まで照らしていた。

 隣の部屋に入ってその光景を目にしたとたん、あたしは気を失いそうだった。
「りょうこ!!!」
「あう、ま、まなみ?! い、いやっ! 見ないで! 来ないで! 臭い嗅がないでぇぇぇ〜〜 あーん、あーん」
 小屋の天井に丈夫な梁が通してあり、りょうこは水着の下だけ脱がされて、まるでSMビデオのように、赤いロープで上半身を厳しく縛られ吊られていた。
 しかも足を折りたたんだ状態で左右に開いてM字に吊られ、あそこからお尻の穴まで全開で晒されていた。
 小屋の床の砂はりょうこの真下だけ大きく掘られ、異臭はそこから上っていた。

「クッセェな、よしお、すぐ埋めろよ」
「悪い悪い、出すごとにちゃんと埋めてるんだけど、換気悪いからな」
 そう言ってよしおさんが傍のスコップを取って穴に砂を投げ込む。
「まなみ…… あんただけでも逃げて…… そして警察に言って……」
「だめだよ、あたしもつかまって、首輪されちゃったもん……」
「ああ……」
「大丈夫? あたし、臭いなんて気にしないから」
「あたし…… もうほとんど力が入らないの……」
「まぁ20回は浣腸したかな。3回目以降は洗腸の意味しかないけど、排泄の屈辱とガス圧の刺激で体力と精神力を奪い続けたからね。 でも、お友達も見に来てくれたし、そろそろおしまいにしよう」
「やあああ」
「この状態でまだまともに会話できるなんて、りょうこちゃんてものすごい体力だね。でも、友達に見られながらそろそろフィニッシュしようね」
 よしおさんは自動車のバッテリーにつながった電動あんま器のようなものを持ってきた。
「いやああ!それいやあああ!」
 ギシギシとロープを軋ませてりょうこが不自由に吊られたまま暴れる。

「ほらほら、ちゃんと仕込んで、ハデに逝こうね?」
 そう言うと、そばのポリタンクに差してあったゴムチューブをりょうこのお尻の穴に突っ込んだ。
「ひいいいい!!」
 チューブの途中にあるゴム球をポクポク握ると、ポリタンクの中身がみるみる減ってゆく。
「きゃああああああ!!」
 りょうこのお腹が見た目にはっきりと膨らんだのがわかるほど液を入れて、よしおさんはようやく手を止めた。
「もうウンコ出し切ってるから、浣腸液いれてもガスの発生が悪いんだよ。この薬があれば、ガスがバンバン発生するのさ」
 りょうこのお尻に薬の粒のようなものをつぷっと押し込み、すかざず太い栓をした。
 栓にも空気ポンプがついていて、そのポンプをスコスコと握ると、りょうこが目を剥いた。
「ぎゃあああ!!苦しい!痛い!拡がっちゃう!!裂けちゃうウウ!!」
 ここまで不自由な姿勢に縛られていてどうやって揺するのかっていうほど、ギシギシと吊られたまま暴れる。

 よしおさんはさっきの電気あんま器を手に取り、吊られたりょうこを背後から優しく抱きかかえ、りょうこのオマソコをあたしに見せつけるようにこっちを向けると、電気あんま器を作動させた。
 ドルルルルッとバイブなんかと比べものにならない野太い振動音とともに、りょうこのからだがビクンビクンと跳ねた。
「ぎイイイイイイイイイ!!」
 もうあたしのことなんて見ていない目の視線は宙をさまよい、涙と鼻水とよだれが溢れ、口からは泡さえ出た。
「キイイイイイ!!」
 ものの1〜2分もしないうちにりょうこの悲鳴が鋭い金切り声に変わり、ついに無言でビクンビクンと踊るだけになった。
 その頃合いを見計らったかのようによしおさんがりょうこのお尻の栓を緩めると、激しい破裂音とともに透明な液体が砂の穴に噴き落ちた。

「あああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
 猛烈な緊張と弛緩を繰り返し、お尻から残りの液を撒き散らしながら、次第にぐったりしてゆくりょうこ。

 その瞬間の、りょうこの絞り出す快感に満ちた声と、満足しきった恍惚の表情を目の当たりにして、わたしは自分もそうされたいなどと
とんでもないことを考えはじめていた。

 あたしの意識の変化にかかわらず、実際この首輪がある限り、あたしは逃げられない。
『まぁ、どのみちキミももうすぐこうなる運命なんだから』
 けんじさんは確かにそういった。
 あたしも、もうすぐ、りょうこやひろみのような、失神するほどの絶頂を体験させられてしまう。
 この首輪はそのための切符のようなもの。
『この首輪はまなみちゃんが楽しむための小道具だよ?』
 浜茶屋でのけんじさんの言葉がなんとなく理解できるようになってきた。

 だけど怖い!
 真剣に怖い!
 どんなに気持ちよさそうでも、あたしたちは拉致事件のど真ん中にいて、今はその事件の真っ最中なんだ。

 このまま永久にけんじさんたちの奴隷にされることすら、難なく実現してしまいそうに思えるほどの手際の良さ、そして財力。
 あるいは実験されるだけされまくってどこかに埋められても、きっとこの3人なら証拠も残さないだろう。
 死体を沖合に捨てることのできるボートまであるし。

「りょうこちゃんも限界みたいだから休ませてあげたいんだけど、僕、まなぶみたいに詳しくないから、けんじちょっと手伝ってくれない?」
「おう、ちょっと待ってな。まなみちゃんがいまさら逃げるとは思えないけど、半狂乱になって飛び出すこともあるかもしれないからな」
 けんじさんはあたしの首輪の正面に指を突っ込み、ぐいと裏側から押し、今度は表側から爪で起こすようにすると、この首輪に仕込まれたD字の金具が起きた。
 そこへ壁から長いチェーンを引きずってきて、大きな南京錠でガチンと留めた。
「あう」
 あたしは鎖の重さが首に掛かり、少しよろめいた。

 お股が変だ。
 今やっと気づいた。
 死ぬほど濡れてる。
 糸引いてる。
 それを気づかれるのが急に怖くなって、自然な仕草を装い、そっと股の前で左右の手を重ねた。
 しかしその動作を待っていたかのようにけんじさんが笑った。
「アハハ、今更隠さなくてもいいよ。言ったろ?僕は『過程フェチ』だって。君みたいな子が酷い目にあってる友達の様子を見て
 濡れたり、精神が変化していく様子を見るのがたまらなく好きなんだ」
 あたしは濡れているのが露骨にバレていたと知って真っ赤になり、さらにけんじさんの歪んだ嗜好が恐ろしくて返事できなかった。
「さっきのひろみちゃんはいきなり完成品だったけど、今からその過程が見られるよ」

 説明しながらけんじさんは棚から黒い塊を取り出し、その間によしおさんがりょうこの下の穴をを完全に埋めて、ベニア板を敷いた。
 ベニアの上にぐったりしたりょうこを降ろし、ロープを解き、水着のブラも脱がせて裸にしてしまった。
 けんじさんが出した黒い塊を拡げると、それはゴムの全身スーツだった。
 食い入るように見つめるあたしの視線に気付き、けんじさんが笑った。
「大丈夫、ちゃんときみの分もあるよ。出しておこうか?」
 棚からもう一着出して拡げて見せる。
「ああ」
 あたしの口から、諦めとも期待とも自分ですらわからないため息が漏れ、股間から音が聞こえそうなほどのおつゆが吹き出た。
 あたしの分の全身スーツを針金ハンガーに通して、わざと見せつけるように棚に掛けると、けんじさんは作業に戻った。

 よしおさんが、ぐったりした全裸のりょうこを、濡れタオルでそれはそれは丁寧に拭き上げる。
 そして片足を持ち上げ、大きなスプレー缶を握るとドバーッを何かを吹き付けた。
 けんじさんが手伝って、その足をゴムスーツに通す。
 何回かスプレーしながら作業を繰り返すと、りょうこは手際よく腰までスーツを着せられてしまった。

 同様に腕にもスプレーされ、左右ともゴムスーツの袖に通される。
 袖の先は尖った手袋状になって塞がっていて、指の分かれ目も無い。
 ちょっと待って、このゴムスーツを着せられてしまうと、ひょっとして自分では脱げないの?
「ああ」
 また声が出た。

 そうこうしているうちに、股下からのジッパーが引き上げられ、首までぴっちりと、それこそウエットスーツを着込んだような状態に、りょうこは全身ゴムスーツを着せられてしまった。
「んん……」
「お、姫がお目覚めかな?」
「先にマスク被せよう」
 バケツの下でひろみが被らされていたマスク。
 構造そのものは割と簡単で、目と鼻と口に穴の明いた、だぶついたマスクをガバッと被せ、後頭部のジッパーを閉めれば余剰部分が折り込まれてピッタリになる。
 しかしその目や鼻や口の穴の脇には複雑ないくつものスナップが装備されていて、ひろみがされていたような口のゴム風船や、目隠しなどを装着できるようになっているらしかった。

 よしおさんが、本当に愛しそうにりょうこの頭を抱え、丁寧に髪をなでつけて、ガボッとマスクを被せた。
 目や鼻や口の位置をキッチリ合わせ、後頭部のジッパーを引き上げられると、さっきまでりょうこだった人間は、目鼻口の自由まで他人にコントロールされてしまう人形のようになってしまった。
 さらにスーツの襟とマスクの襟が重なった状態になっているその首に、幅が5cmはありそうな金属製の首輪を嵌められ、南京錠を掛けられてしまったので、仮にあたしがりょうこを救い出したとしても、このマスクやスーツを脱がすことができなくなってしまった。

 よしおさんは、まなぶさんがひろみにしていたのと同じようなゴム風船のオプションを取り、まだ朦朧としているりょうこの口に突っ込み、左右のスナップを留めて口を塞いだ。
 そしてその中央に突き出ている金属の筒にゴム球を当て、スコスコと何回か押した。
「……〜〜…〜…」
 りょこはまだ意識がはっきりしていないらしく、最後の声も上げないまま口の自由を奪われてしまった。

 よしおさんは、これもまたひろみがされていたのと同じガスマスクの面を取り、りょうこの顔に被せた。
 今の段階ではまだ口の部分にはホースはついておらず、太い金属製のまるい口金が見えていた。
 そのガスマスクはひろみの時と同様、頭の頂点を通って左右の耳の脇を結ぶジッパーで土台となるゴムマスクに装着されるようになっていた。
 よしおさんがそれをりょうこに被せてジッパーを閉じると、りょうこは既に口をゴム風船で塞がれているので、鼻の呼吸をいったん顔の前の空間に溜めて、それをガスマスクの口の穴から換気することを強制されてしまった。
 なんて残酷で苦しそうな息の回路なんだろう。

 ……って! それって、ひろみはずっと…… バケツの中で…… しかもあんな長いホース付けられて……
「ああ」
 自分自身のこれからの運命を、2つの角度からじっくりたっぷり眺めさせられるあたし。
 ひろみやりょうこのようにいきなり酷い目に合わされて、理解が追いつかないまま快感の海に投げ込まれるのではなく、1ステップずつ、無理矢理把握させられながら、酷い状況に近づけられてゆくあたし。
 まるで今のこの状況こそが、あたしに対する処刑のプロセスそのものであるかのように。

 ガスマスクまで被せ終わると、よしおさんはけんじさんに手伝ってもらってりょうこをうつ伏せにし、腰を引き上げてお尻を高く突き出させた。
 りょうこはまだ起きない。
 そして股のジッパーを開けると、ものすごい数のイボイボが付いた柔らかそうなバイブのようなものを持ってきて、トロトロのローションをたっぷりまぶしてりょうこのお尻に突き立てた。
 とてもお尻に収まるとは思えないほどの長さがある。
「ウ……」
 遠くでりょうこのうめき声が聞こえる。
 さらにゆっくり押すとズルンと先っぽが入った。
「ウウーーーー」
 単調な叫び声が聞こえ、りょうこが体を起こそうと暴れた。

「抑えてるから手早く入れろよ」
 けんじさんはりょうこを背中からガシッと抑え込むと、よしおさんを急かした。
「ンンッ!! ンンッ!! ンンッ!! ンンッ!! ンンンンンッ!!」
 ゼリーにも似た柔らかそうなイボの束がお尻の奥に沈むたびに、りょうこが小刻みに跳ねて叫び声を上げる。
 その篭った声が本当に気持ち良さそうに、あたしの鼓膜を打つ。
 イボイボがお尻を逆流して通過する瞬間の、りょうこの激しい快感の尖りが、あたしの心臓に刺さるようだ。

 ありえないほどの長さのバイブが、全部りょうこのお尻に飲み込まれ、基底部まできっちり押し込まれて、あとには電線と短いチューブが残った。
 短いチューブには手早くゴム球が付けられ、よしおさんがスコスコと数回押すと、もうバイブは抜けなくなった。
 お尻のジッパーが閉じられ、りょうこはよしおさんとけんじさんの手でゴロリと仰向けにされた。

 りょうこはもう失神から覚めているようだけど、もがく手足に力が入らない様子だ。
 あんなもの…… お尻に入れられちゃったら…… 無理だよ…… 抵抗なんてできないよ……
 それでなくてもあんな無茶なお浣腸で体力奪われているのに……

 大した抵抗もできないまま、りょうこはつぎつぎと怪しい仕掛けを装着されてゆく。
 おっぱいのジッパーが開けられ、イボイボのいっぱい並んだ円形の柔らかいパッドにローターが2つついた物を、乳首を中心におっぱい全体に被せられ、ジッパーが閉じられた。
 そういう知識のないあたしにだって、あれで何が起こっちゃうか容易にわかる。
 乳首がローターに挟まれて、イボイボに周囲を責められて、あれが全開で振動したら、きっと乳首ちぎれちゃう、おぱいもげちゃうよ。
「ンムゥ……」
 ガスマスクで表情が見えないけど、聞くだに気持ち良さげな呻き声がマスクの口金から漏れた。

 次によしおさんが股のジッパーの前部分を開け、ローターの2つ並んだ木の葉型のパッドを押し込み、ジッパーを閉じると、りょうこがビクッと震

えた。
 ああああ、あれはきっとクリトリスを……。 考えただけで、あたしの脳内にも熱い麻薬が吹き出る。

 完全に黒いゴム人形になったりょうこの腰に、弁当箱くらの大きさの黒い箱が取り付けられ、胸や股から伸びた電線が接続された。
 けんじさんは余った電線を束ねると、大きな黒いゴム製の寝袋を持ってきた。
 まだ包む気だ!
 ひろみに施されていた恐ろしい拘束の様子が次々と明らかになるほどに、あのバケツの下のひろみの表情が思い出され、かわいそうだ、ひどい、と思うと同時に、その時の快感がよりいっそう明確にあたしにも流れ込んで来るようになってしまった。
 もうお股いじってイキたいよ、あたし。
 でもまだまだ理性も残ってて、けんじさんたちが見ているそばでそこまでストレートな行動をとることができない。

「僕、穴掘ってくるわ」
 けんじさんがシャベルを持って出て行った。
 よしおさんはあたしの表情を見て、不気味なほど優しくニニッコリ笑い、
「まなみちゃん、手伝ってよ」と言った。
「はい……」
 首輪に繋がった鎖の南京錠を外してもらい、折りたたみ式のD字金具を自分の指で畳んだ。
「りょうこちゃんを立たせるから、倒れそうになったら支えてくれる?」
「はい……」
「ほら、りょうこちゃん、立って」
 ぎこちない動作で真っ黒なラバー人形が立ち上がる。
 よしおさんは天井近くの丈夫な梁にロープを通し、フラフラ立っているりょうこの首輪に結んだ。
「倒れたら絞まっちゃうから、まなみちゃん頼むよ」
「はい……」
 あたしはまだ手足が自由なりょうこのそばに行き、背中から抱くように抱えた。

 ……熱い……

 黒いラバー人形は、見た目の無機質さとは裏腹に、中に詰め込まれた哀れな人間の存在を体温によって外に伝えていた。

「はい、ちょっとどいて」
 よしおさんはりょうこの手を背中に回させ、まっすぐ伸ばすと、尖ったV字型のゴムのカバーを被せ、両腕を背中で一塊にしてしまった。
「まなみちゃん、また支えるの頼むよ」
 あたしは、こんどはりょうこの腕ごと体を支える。
「りょうこちゃん、聞こえる? 右足上げて。はい、下して。こんどは左足あげて。はい、下して。よくできました」
「まなみちゃん、またどいて」
 よしおさんは黒いゴムの寝袋にりょうこの足を入れさせると、スプレーをかけながら肩まで引き上げた。
「ここ、押さえておいて」
 あたしに肩口を押さえさせると、りょうこの足元から首まで一気にジッパーを閉めた。
 体形に合わせたフルオーダーではないようで、ところどころにだぶつきも見られるが、りょうこはほぼ全身をギッチリとミイラのようにラバーで固められてしまった。

「しっかり押さえておいてよ。暴れ出すかもしれないから」
 あたしに念を押し、よしおさんはりょうこのガスマスクの口金に長い蛇腹のチューブをねじ込んだ。
「コフッ? コ、 コ…… コーー、 フーーーッ。 コーーー! フーーーーーッ!! ムーーーーーッ!!!」
 あたしの腕の中でりょうこが呼吸パニックになる様子が手に取るようによくわかる。
 あたしもこんな目に合わされるんだと思うと、唇が冷たくなるほど怖い。

「コーーーーーッ! フーーーーーーッ! ムオオーーーー!!」

 どんなに深呼吸しても永遠に解決されない酸素不足。
 残酷な仕打ちに指が震えちゃう。
 その仕打ちの手伝いをあたしがしてるなんて……

 うーーっ。
 うーーーっ。
 おつゆ止まんないよぅ……

「おう、できたかー?」
 けんじさんが戻ってきた。
「なんとかね」
「暑ッちーー!!! やっと日が暮れてきたぜ。出来たなら運ぶぞ。なーんだ、まなみちゃん、手伝ってんの?
 その体温と痙攣がたまらないでしょ」
「……」
 正直、もう自分が何者なのかさえもわからなかった。
 ありとあらゆる感覚を遮断され、自由を奪われ、呼吸を制限されて、あたしの腕の中で小刻みに震えるりょうこがたまらなく愛しかった。
 さっき見たバケツからはみでるひろみの髪の毛が、無力な彼女の存在を唯一確かに外界に示すものだということがわかり、まなぶさんがなぜそこにこだわったのか、理解できてしまった。
「はい……」
 たっぷり自問自答してから、肯定の答えを口にした。
「まなみちゃん、最高にいい目してるよ。 ……さ、こっちを先に片づけよう」

 けんじさんが、野菜の段ボール箱をいくつも積み重ねたものを載せた背負い子を持ってきた。
 まるで今から浜茶屋に納品にでも行くような格好だ。
 ところがこの段ボール箱はフェイクで、人一人入れるほどのお棺のような箱を、段ボールを積み重ねたように偽装したものだった。
 
 そこへりょうこを押し込み、蓋を閉じると、単にうずたかく載せられた段ボール箱にしか見えない。
「どっこいしょー!!」
 それをけんじさんが背負い、よしおさんがシャベルを2つ持つとウンチ臭さのまだ残る資材置場の小屋を出た。
 あたしもシャベルを1つ持たされた。

 外はもう日が暮れていて、若干異常な集団のあたしたちでも目立たない。
 さっきひろみが埋められていた場所のすぐ近くに深い穴が掘ってあり、そばにまなぶさんが立っていた。
 穴の脇にけんじさんが背負い子を立て、周囲の様子を伺いながら、中からりょうこを取り出して穴の中に降ろした。
 けんじさんはすぐに背負い子を小屋へ戻しに行き、あたしとよしおさんとまなぶさんの3人でりょうこを首まで埋めた。
「ムーーーーッ!」
 りょうこは何をされているのかもわからないまま、全身を圧迫されることに驚いて、動ける範囲でグネグネと抵抗する。

 複雑な気分だった。
 いくら首輪を嵌められて無理矢理手伝わされているからといっても、数十分後の未来の自分を埋める手伝いをするなんて……

「コフーーーッ! コシューーーッ!」
 悲痛な響きの篭る呼吸音を聞きながら、あたしはまるで自分自身をいじめているような自虐的な気分になった。
 それが猛烈なスリルと快感をあたしにくれる。

「バケツ、被せる?」
 蛇腹チューブの先にフィルターをねじこみながら、よしおさんがあたしに尋ねる。
 ゴクリ、と唾を呑んで、あたしは頷いた。

「はい、これ」
 古びたバケツを受け取る。
 砂から出ているりょうこの黒い頭。
 そのガスマスクの目からはあたしが見えているはず。
 友達を売ったと勘違いされてしまうかもしれないけど、今のあたしにはそんなことどうでも良かった。

 あたしは震える手で、本当にあたし自身に被せるようなつもりで、そのバケツをりょうこに被せた。

「うーーーっ!」

 快感でイキそうだった。

 オナニーのプロセスを前戯とイク瞬間とに分けるなら、たった今のあたしは、その前戯プロセスを完全に終えて、まさにあと指の一撫でイクという状態。
 信じられないことに、あたしにとっては、今まで見てきたシーンが前戯プロセスと等価だった、ということだ。
 あとは最後の一刺激で本当にイク。
 真の興奮には指の刺激なんていらないって、初めて知った。

「まなみちゃん」
 けんじさんの言葉に、あたしはビクッと震えた。
 全身の毛が総毛立ち、その一撃をもらえる予感に震えた。

「君、の、番、だよ。」

 言葉にしてみれば日常会話に普通に出てくる、何の変哲もない一言。
 でもたった今のあたしにとっては、どんな高性能のバイブなんかよりもオマソコに響く、極上の一撃だった。

「あ…… あ…… はい…… うーーーーーーッ!!」

 返事して一呼吸したら、ほんとにイッた。
 オマソコの奥が内側からしびれちゃって、勝手に子宮が収縮したような気がした。
 膣の筋肉が不随意に痙攣してる気がする。
 中が熱いよ……
「うーーーーーーッ!!」
 涙目になって、勝手にオシッコ漏らした。
 水着の股んトコロが熱くなって、ダジダジと砂を叩く音がする。
 最後に内股が足首まで不快な温かさに襲われて終わった。

「グスッ…… グスッ……」
「すごいな、ままみちゃんは。今のでイッたんだ」
「ウウウ……」
 全身を襲う超興奮と、お漏らしの脱力感。
 精神的にどう対処していいかわからなくて、頭がバラバラになりそうだった。


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