望まれるという被虐

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 マーサがメイド長と向こうへ行ってしまったので、あたしは一人で控え室に戻った。

 まるで判決前の囚人のように、控え室の椅子で俯いていた。
 本当にベッキイのように樹脂で固められてしまうかもしれない、ということがいきなり現実味を帯びて来た。
 ひょっとしてマーサはずっとあたしに病的な愛情を抱いていて、今までそれを押し隠して親切にしててくれたのかもしれない。
 ベッキイのことや、あたしがベッキイ見て濡れた話なんか出なければ、その歪んだ愛情は単にマーサの心の中の問題だけで済んでいたのかもしれない。
 でもあたしの性癖を垣間見て、マーサ自身の心の闇を、触手に暴かれてしまったのだろう。

 そして、あたしも今の騒動で、もっと気持ちがオカシクなってきた。

 あたしの惨めなありさまを見て興奮したいと思っている人がこの世に居ることを知ってしまった。

 ベッキイのようにただお仕置きとして樹脂で固められ晒されるのではなく、その人の歪んだ意思で、罠に嵌められて固められてしまうことに滅茶苦茶感じてる。
 誰かの意思によって酷い目に遭うということに、興奮を覚え始めてる、あたし。

 ―― ゾクゾクゾクゾク ――

 でも今はまだ恐怖の方が全然大きくて、やっぱりマーサを恨んでるけど。


 あたしの心のなかを読んでいるのか、触手ビスチエが反応し始めた。
 いつもの責めかたと逆。
 手足の愛撫からじゃなくて、いきなりおまん○の中心、全ての快感神経の集合点であるクリトリスをソフトに絞められた。

「はうっ!」

 ボンヤリしてた身体が一気に緊張し、もともと濡れそぼっていたソコからはとめどなく蜜が溢れて周囲の触手に吸われてゆく。

 全て話の結末がすぐそこまで一気に押し寄せてるのに、大嵐のまえの凪ぎのように、まだなにも起こらない瞬間に居合わせているのだということをひしひしと感じる。
 そしてその迫る大嵐の風圧もビリビリ感じる。
 身体を覆う触手どもも、既に全体意志を把握してるのだろう、こうやって幼稚で姑息なサービスを仕掛けてくるのがウザイ。


 がチャリと控え室の戸が開いて、今度は死んだような目をしたマーサが入って来た。

「うぐっ…… クリス…… うう……」

 マーサの蒼白な面持ちを見て、あたしはフッとため息をついて、逆に緊張をほぐすように、やれやれという顔をして笑った。
「あはは、らしくないよぉ、マーサ! でもいったいいつから?」
「ごめん、ごめんよクリス。クリスがこのお屋敷に来たときから、可愛い、スタイルいい、って仲間の間で話題になってたんだ。でも最初あんな性格だったろ?」
「悪かったわね! 基本、変わってないけど?」
「アハハ、そうだけどさ、素直に受け入れてくクリスって、夜中どんだけ触手にイカされても追いつかないほどカワイイんだぜ」

 あたしはボウッと炎上するかとおもう位、赤面した。

「だっ! はっ?! 何言って……」

「私もこの触手下着でオナニー制限されて監視されてるけどさ、他の子たちも似たようなもんだから、触手どもから見れば 誰がどうなったら皆が興奮するのかもうわかってたんだろうね」

 ぎくっ。

 あたしは興奮で心臓が破裂しそうだった。

「あたしが…… 生け贄ってこと……?」
「ベッキイもね」
「ああ……」
「そして…… あた」

 その時メイド長様が入って来た。
「マーサ、早くなさい」
「は、はい、メイド長様」
 メイド長はマーサに声を掛けるとすぐに出て行った。

 あたしは興奮でわなないていた。

「みんな…… あたしを…… 生け贄に…… したいんだ……」

「ま、まあな」

「怖いけど…… 望まれるって…… きもちいい…… マーサも……見たいんだよね…… あたしの…… 彫像……」
「うん。 滅茶滅茶見たい」

「あああ! いいよ…… そのかわり、ん……」

 あたしは口を尖らせて目を閉じた。

 僅かの間があって、唇が赤熱で塞がれた。

 貪るように舌を捩じ込まれ、口じゅうを蹂躙して抜けた。

「ぷあ。」
「ふう。本気でキスしたのって、初めてかもしんない」
「あたしだって!」
「アハハ」
「……ねぇ。ちゃんと伝えてよ。メイド長様から言われてること…… そのために戻って来たんでしょ?」

 マーサはごくりと唾をのんだ。

「……おしおき、だってさ。ち、地下に、連れて行くように……と」

 あたしもごくりと唾をのんだ。

「…… …… はい……」


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