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  晒しもの行事  







§§ 晒しもの行事 §§

 自分で勝手に色々考えついて、どんどんエッチな気分になってきた。
 口枷の中に唾が溜まる。
 目尻が下がる。
 瞳が潤む。
 眉毛が八の字になる。

「ホフッ……」
「ホフッ……」

 周囲に気づかれないように、小さな喘ぎ声を出す。

 ほっぺたが熱い。

 思考の回廊から抜け出し、目の前の景色に焦点が合うと、私の目に映ったのは私を見上げる人々の群れだった。

 純粋に自分の好きなものを見つめる目。
 キラキラ光った目。
 アイドル歌手とかはこの視線が快感なんだろうか。
 そういう意味では、私もアイドルってことなんだろうか。

 自分を射るような視線の束から身を逸らそうと、身じろぎを試みたけど、もちろん全く動けない。
 動けないことに慣れちゃった私が、視線がきっかけで身動きできない自分の状態を再認識してしまった。

 い…… いやっ……!

 見ないで……!

 しばらく忘れていた、本能的な羞恥心に火がついた。
 理屈抜きで真剣に恥ずかしい。

「ウーー!! ウウウウウーー!!」
「どうした? 腹へったか?」
 絽以がすぐに飛んで来てくれた。
 今日もすぐ後ろに座っていたらしい。

 急に恥ずかしくなったからもう中へ入るゥ〜!

 正面はバルコニーの細い柵すら無いので、檻の正面へは回れない。
 絽以が横から私を覗き込む。
「うわぁ…… お前なんて顔してんだよ……」
 しょ、しょうがないでしょ? 急に恥ずかしいの我慢できなくなったんだもん!
「腹が減ったからって、そこまで情けない顔するこたぁないだろ。ほら、みんな見てんぞ?」
 ひー!
 煽るなぁ!
 でも、絽以は空腹と勘違いしてるの?
「今、食べさせるからな。えーと、横から食べさせられるようにって言ってたけど、今回の食事は変わってるな……」
 横目の視界ぎりぎりに、絽以がバスケットを持っているのが見えた。

「まずはこの前掛けか。小さいな…… よだれかけ? ハハハ」
 歯医者で子供の患者さん用に用意されているような、小さなエプロン。
 私の体を檻に固定する何本かの細い棒に邪魔されながら、絽以がエプロンを掛けてくれた。
 掛けてくれた……のはいいけど、赤ちゃんみたいな惨めな食事を、皆に見られちゃうのォ〜?
 こんなものまで見世物にして面白いかぁぁぁぁ?
 絽以が口枷の栓をねじって外した。
「うわ、なんだこれ? ベットベト! ……入れるぞ?」
 寸詰まりのソーセージのようなものが口枷の穴からポコンと押し込まれた。
 何これっ?!

 ネットリと固めてあったソーセージ状の物がホロリとほぐれ、それは口の奥で柔らかいサラダのみじん切りとゼリー状のドレッシングに変わった。
「ゲグッ! ゲグッ!」
 飲み慣れない性状の食べ物に一瞬目が白黒したが、実際にはとても美味しいものだった。
「ング! ング! ング! エウッ!」
 美味しいけど、液体ではないので、如何に喉だけの嚥下に慣れた私でも、一部が開かされたままの口から溢れ出る。
 口をすぼめて防ぐことも、舌で追いかけることも出来ない私は、ドロドロした食べ物をまるで赤ん坊のようにダラダラこぼしてしまう。
 美味しいんだけど、落ち着いて味わうことなどできない。
 絽以がどこからかナプキンを出してきて、口を拭ってくれた。

「つぎはこいつだ。これはあまりベトベトしないなぁ」
 口に押し込まれたのは魚の匂いのするすり身を棒状に固めたもの。
 あまり汁気を出さずにホロリとほぐれ、喉の奥がモッソモソになった。
「ゴグ!」
 一口目はなんとか飲み込んだけど、残りが喉をモゾモゾと擦って、たまらず咳込んだ。
「オヘアッ! ゲヘ! ゲヘ!」
 半分ほどが口から飛び出し、バルコニーの下へパラパラと散りながら消えていった。
「大丈夫か? あーぁ、もったいねぇなぁ。ま、いいや、次これね」
 絽以は私が魚のすり身を嚥下し終わるのを見届けてから次を入れた。
 おほっ!  冷たい!
 正体がわからないまま口をじっとしていると、全体が次第に融けてきて、トロみのあるスープになった。
 これは喉越しが良さそうなので、慎重に飲み込んでこぼさなかった。
 次はツナギの入っていないハンバーグのようなもの。
 ツナギの代わりに牛脂よりもっと融点の低い油で練ってあるらしく、ほぐれたとたんに口いっぱいに旨味が広がった。
 しかし飲み込むのは大変だった。
 舌の奥でユッケのような肉の塊を作り、そのまま力を抜くとドローンと肉がペースト状になって喉へ落ちてくるので、すかさずゴクリと飲み込む。
 一瞬でもタイミングを誤ると、肉が気管に入るという想像したくない惨事が訪れるか、または口の中身を呼気とともに発射し、鼻に肉片が内側から詰まるかだ。
 あー、勝手に涙が出てる。
 自分じゃどうしようもない。
 目を白黒させながら飲み込み終わると、絽以が水を飲ませてくれた。

「最後のこれって多分デザートだと思うけど、まだ入るかい?」
「ウー」
「よしよし。うわっ! ベタベタでネバネバ!」
 何だろう?
 口枷の入り口にベタベタとつっかえながら押し込まれたそれは、口の奥でゆっくりと溶けて、少しくどい甘みと、ココナツツやバニラの混じった香りを放った。
 まるで、私が味わえないことを計算に入れた上で作られたように、本来限定された味しか感じないはずの舌の奥だけでも充分美味しく感じた。
 ポロッと涙がこぼれた。
 私、泣いてばっかり。
「えっ? どうした? 平気か?」
「ウー」
「ホッ…… ならいいけど」
「あと最後にこれだ。クンクン…… 紅茶みたいな匂いだな」
 小さなチューブから搾り出すように注がれたそれは、トロみをつけた紅茶かウーロン茶のようで、口の中がさっぱりした。

「あーぁ、赤ん坊より酷ぇな」
 絽以が半ば煽るように言い、私の口枷周りを拭き、エプロンを片づけた。
 食べ散らかしが惨めすぎるゥ〜
「食事のあとは排泄だな。大きい方はここでは無理だから、おしっこだけな」
 なんですって!?
 なんでそこまでしなきゃなんないのよッ!
「ウー! ウー!」
「え? いやなの? ならいいけど」
 ホッ……

 わざと食べこぼすように作られたとしか思えない、惨めな、だけどおいしい食事の後は、また放置だった。



§§ 晒しもの放尿 §§


 入れ代わり立ち代わり訪れる人々を視界の隅で認識しながら、そっちを見つめることも出来ず、ただボーッと上目遣いの視線に晒され続ける。

 日も傾き、表の広場に城の長い影が落ちてきた頃、ブルッと震えが来た。

 ……おしっこしたい……

「ウー! ウーウー!」
 不規則に声を出して絽以を呼ぶけど、意味が伝わらないのか絽以は来ない。
 ガタガタと檻を揺ろうとしたが、もちろんビクともしない。

「ウ〜〜〜〜〜!」
 絽以ィーー!!
 肝心な時に役立たずーー!!

 興奮して暴れたら少し気が逸れて、さっきまでの切迫感はなくなった。
 しかしまた10分ほど後、また尿意が襲って来た。

「ウ〜〜〜〜〜〜!」
 本当に漏れちゃうよぅ!

 ―― ジョーーーッ ――

 下に集まっていた人たちが全員退(ひ)けた一瞬があり、気が緩んだのか、叫ぶ間も無く漏らし始めた。
 えっ?
 ちょっと!
 この!
 鍛え方がいいのか、凄い苦痛を伴っておしっこが止まった。
 普通女子は止められないって言うけど、根性で止めた。
 だけど……
 こんな中途半端はやっぱり耐えられない。

 今度は自分の意思で括約筋を緩めた。

 最初のおもらしは、情け無いけど仕方ない。
 でも、途中からのは、自らの意思による放尿。
 死にそうに悲しくなって涙がポロポロこぼれた。

 ジョロジョロジョ〜
 ヒック……
 ヒック……

 ジョロジョロジョ〜〜
 ヒック……
 ヒック……

「あー悪い悪い、ちょっと話が長引いて…… 何やってんの? あっ!」
 絽以、遅いよ!
 どこかへ行っていたの?

「よりによって長老に呼ばれている間に…… 悪かったなぁ」
「ウー!」
「あとで埋め合わせするから。な? 機嫌直せよ」
「ウー」

 絽以はどこからかバケツに水を汲んで来て、私の檻の下を2,3回流した。
「幸い、全部雨樋(あまどい)に流れたから気にすんな。 待てよ……!」
 絽以は私の目の前に身を乗り出してバルコニーの下を見下ろした。
 左の遠くから右の遠くまでずっと見渡してから顔を上げた。
「いや、まさか真下に垂れ流しかと思ったけど、ちゃんと樋で流れるようになってる」
 ホッ……

 城門が閉まったのか、もう見る人は居なかった。
「もう中へ入るぞ。大事な話があるらしい」

 もうすっかり暗くなったバルコニーから、絽以に押されて城内に戻った。






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