罠に落ちたの?

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 恥ずかしいのを我慢して姿見でじっくり観察する。
 フフフ、これをスマホでセルフ撮影して良一に送れば、アイツきっと即死だわね。
 この画像こそがアイツの求めている画像。
 どれだけネットで同じような画像を集めても、同じものを美人のモデルが着ていても、絶対満足しなかったアイツを、一発で満足させられる画像。
 何年もかけて集めた莫大なエッチ画像にいとも簡単に匹敵してしまい、それらをも凌駕するたった一枚の画像。
 ――ドクン――
 私が……。
 私が……ボンデージを……着てる……画像……。
 アイツ、バカだよバカ。
 あんなドイツのすごい外人モデルが着てる画像より、こんな幼馴染の同級生が着てる画像の方がいいなんて。
 私の顔なんて見慣れすぎてて、普通なら萎えると思うんだけど?
 それって……。

 ――ドクン――

 私の素肌に纏わりつく革ベルトの衣装が、突然温かみを持ち始めた。
 まさか、私のことが……好き?
 私の顔がアイツのエロ妄想の部品に使われたという嫌悪感を、その想いが追い越し、愛情に包まれるという新たな認識に自分が震える瞬間が訪れた。
 どんだけアイツのエロ妄想の罠だと卑下して否定しようとしても、一度そう認識してしまった私は、完全にこのボンデージに絡め取られてしまった。
 千歩譲ってここだけの私の恥ずかしいカンチガイだったとしても、嫌な気分じゃないのが不思議だった。

 もー、さっきから体を動かすたびに、何度もほろりと外れる留め金が煩わしい。
 手で押さえていると鏡で全体が見れない。
 南京錠の鍵も手元にあることだし、ちゃんと留めてみよう。
 興奮の渦が抜けきれぬまま、カチリと施錠した。

 ふー。
 急にフッと醒めた。
 でもやっぱり本人に面と向かって好きと言われたわけではないので、万一恥ずかしい私の思い込みだったら自殺ものだ。
 私が勝手に良一に想われていると思い込み、暴走したなんて。

 やめたやめた、こんなバカバカしい遊び。
 私はどうかしてたんだ。
 でも着る時の苦労を考えれば、ただ脱ぐのも勿体無い。
 私はスマホを取り出し鏡に向け、どうせ見せるわけではないからと、飛び切りの笑顔で笑ってシャッターを切った。

 充分気が済んだのでバレないうちにキレイに畳み、良一に突ッ返そう。
 やっぱイラネ!ってね。

 鍵束を取り上げ、おへその上の南京錠に差し込み、何の疑いも無く回す。

 あれ?
 回らない。

 一度抜いて鍵束を見ると、3つの鍵ともきれいに同じ山の形をしてリングに通され並んでる。
 でも精度の問題ってこともある。
 いつか台所の鍵を複製しに行ったら、鍵やのおっちゃんが、微妙に開かないこともあるから必ず確かめろって言ってた。
 2つ目の鍵を取り、挿入して回す。
 ……回らない。
 3つ目。
 ……回らない。

 カーーーーッと頭に血が上った。
 ハメられた!
 アイツ、私が着るかも知れないって思って、こんなくだらない罠を!!

 夜も遅いけどまだ10時、テスト勉強でもっと遅くにお邪魔したこともあるから、今なら平気!
 乗り込んでいってゲチョゲチョにやっつけてやる!

 鼻息荒く意気込んだ瞬間全身が凍りついた。
 私、こんなとんでもないカッコしてた!
 人間社会において衣装というものがいかに大切か痛感する。
 いまこの瞬間のボンデージ姿の我が身が、どうやってアイツをエラそうに怒鳴り散らせるというのか。
 胸をくびり出され、股を卑猥に締め込まれ、私はとんでもなく卑しい存在に貶められている。
 ほんの僅かな面積しか持たない特殊な衣装のおかげで。
 いや、別に本当にそんな存在になったわけじゃないんだから、服着て飛び出して良一ン家のインターホン押しておばさまに挨拶して上がり込んで怒鳴り散らせばいいだけ。
 なぁんだ、簡単じゃない。
 チガーーウ!!
 最初でつまずいてるよ!

 服、着れるの?
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