めんどくさい構造のボンデージ衣装

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 水着用のハンガーフレームに絡み付いたそのボンデージコスをじっと睨み、構造と機能を把握する。
 よく観察すると、それは紐というか幅2cmほど、厚さ2mm程の革ベルトで出来たブラとパンツの2つのパーツから成り、それを上下繋げたような構造だった。
 革はよくなめしてあるようでしなやかだったが、この厚みは小学生のランドセルの肩ベルトほどもあり、とても普通にハサミなどで切断できそうもない堅牢さだった。
 繋ぎに使われているリング部の折り返しは、革の厚みをなだらかに削られ、ニカワのようなもので密に接着された上から頑丈なリベットで留められていた。

 ブラ部分の構造は普通のブラのように2つのカップ状の構造を背中を水平に通るベルトで繋げ、ブラの肩紐と同じようにカップの上端から背中のベルトに向かってブラを吊るような構造のベルトが付いている。
 便宜的にカップと表現したが、おっぱいを囲むそれはとてもカップと呼べる代物ではなく、ただの革ベルトが金属のリングによって菱形に繋げられたものが2組並んでいるだけだ。
 ブラと言っても肝心のものを全く隠す機能も支える機能も持たない、ただの革ベルトと金属リングで構成された、乳を囲む『枠』だ。

 その『乳枠』の下のリングからは下向きに斜めのベルトが中央に向かって伸びていて、それがおへそのすぐ上くらいの位置で1つのリングに集まり、そのリングから下に短い革ベルトが伸びている。
 また、ブラの背中側の、肩紐に相当する革ベルトが水平のベルトに接続されるリング部分からは、前のカップの下と同じようにY字に革ベルトが伸びていて、パンツ部分の背中中央に接続されている。

 パンツもブラと同じく肝心の部分を隠す機能など無く、水平の腰ベルトも縦のベルトも全部同じ幅の革ベルトで出来たふんどしのような構造だ。
 お尻のすぐ上にリングがあり、そこにはブラからY字に下がってきたベルトが繋がっている。
 そこから左右と下にもベルトが伸びていて、左右のベルトは左右の腰を回り前で接続されるベルト、下に伸びるベルトは股を潜(くぐ)りやはり前で接続されるベルトとなりふんどしの形を構成している。

 パンツに相当するパーツは、おへその下すぐの所で上下左右からベルトが集まり、そこに少し厚い革のバックルがついている。
 よく見るとバックルの下から金属の鍵束が見えていて、バックルを捲るとバリッとベルクロテープが剥がれる音がして下から金色に輝く真鍮製の南京錠が現れた。
 南京錠のサイズはよく門扉などにぶら下がっている物より少し小さく、旅行バッグなどのジッパーを施錠するものよりは少し大きい物だった。
 南京錠は解錠され開いた状態で留め金に通してあり、さっき見えた鍵束はこの南京錠の底部から出ていた。
 小さなリングに同じ鍵が3つ通してあり、その鍵のうちの1つが南京錠の鍵穴に差してあった。
 金物屋や100均で南京錠を買うとよくこんな状態でパックしてあるのを目にする。
 要するにこのバックル部がこのボンデージ衣装を構成する全てのパーツを中心で繋ぎ留める役割をしており、この南京錠を施錠するとこれを着せられた人間は自らこれを脱ぐことが出来なくなるわけだ。
 もちろん、鍵が無ければ第三者が脱がせてやることも出来ない。

 解錠されたままの南京錠をそのままクルリと回し、革ベルトを束ねている留め金からツルの部分を抜くと、まずパンツ部を構成する股を潜るベルトが外れ、次に左右のベルトが外れ、留め金の付け根はブラの左右のカップの下からY字に下がっているベルトに固定されていた。
 面白いことにそれ以外の留め金や調節部分は無く、他はすべてリングに革ベルトをリベットで留めてあるだけだ。
 こんなもの実物は初めて見るので、サイズについての知識などあるはずもなく、面積が少ない分、勝手に合うのだと漠然と考えていた。

 中央の留め金が外れると、パンツ部分はそのふんどし状の形態を失ってただのベルトの塊になり、だらりと垂れた。
 そこで初めて股を潜るベルトの真ん中にリングが2つ並んで連なっているのに気付いた。
 背中側に近いリングはやや大きく、妙な形に歪んでいる。
 前側に近いリングはやや小さく、どちらのリングも他のリングと同様、革ベルトを折り曲げてリベットで留めてある。
 不思議なことにその小さなリングの前寄りのリベットは他の全てのリベットより大きくて分厚いものが使用されている。
 さらに良く見ると内向きになだらかに尖っていて、あんな形では皮膚に食い込みそうでちょっと心配だ。

 ブラ部分は全く調節が無いので水着ハンガーを下に抜くように外し、全体を手に持ってみた。
 なんだかサイズがぴったりっぽいのが、アイツの思惑の中から抜け出せないようでイヤーな感じだ。
 ただそのイヤさは、呆れ感情30%、視姦の不快感20%、残りの50%は何とも言えない甘いジワリと染み込む感情が占め、不思議な軽い興奮が伴った。

 どうやって着ればいいの?
 ブラがバラせないってことは、Tシャツのように上から首と手と……おっぱいを通すのだろうか。

 とても他人には見せられない間抜けな姿で、そのベルトの塊を頭から被る。
 下着や洋服と違ってヒヤッと身体に冷たく感じる。

 ブラの水平ベルトと肩ベルトとの間に左右の腕をそれぞれ通す。
 当然、胸の上でそのベルトの塊は引っかかり、思わず乳首がベルトで傷つかないか心配になってしまった。
 一応人並み以上にあるバストのことを良一が考慮しないわけはない。
 背中側のベルトをぴったりに合わせたら、あまり抵抗なくカップ部分を構成する菱形ベルトの下部は乳首を越えた。
 乳首を中心にして、そこはかとなく左右のおっぱいをそれぞれ菱形に取り囲むベルト。
 その下に続くY字のベルトがちんちくりんに宙に浮く。
 これはおかしいよね。

 背中側は素直に真っ直ぐ下りているので、背中に垂れたベルトの束のうち、腰ベルトに相当する短い2本を探り当て、腰を回して前で合わせてみる。
 腰の一番くびれたところに食い込み、ちょうど中央で合わさる。
 ここへY字に下がったベルトの留め金の土台が来ないといけないんだ。
 全然足りてない。
 でもこれ以上引っ張るったって……
 その時、ブラ部の菱形のベルトの意味が突然理解できてしまった。

 ――ゴクリ――

 その形にとらわれて、水着のブラのようにおっぱいを囲んで支えるのだと思っていた。
 ……ちがう……
 この菱形から、おっぱいを、縊(くびり)り出すんだ!
 ちょっと待ってよ……
 それって……なんて惨めで……卑猥な構造なの……?

 思考が半分くらい停止し、自分が今置かれている位置に激しく動揺する。
 私……自分がとてつもなく惨めな姿にされてしまう状況の入り口に立ってる!
 でもそれは、私が望んで始めたこと。
 しかし誰に強制されたわけでもなく、完遂する義務も無い。
 単にアイツがどんなこと私にさせたいのか見てみたかっただけ。
 こんな人をバカにした姿なんて……
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